KOF’2000 餓狼伝説チームストーリー




人の存在がまったく感じられない物いわぬ石碑が立ち並ぶ空間に、一人の男が足を踏み入れた。
「ここにくるのも1年ぶりか」
 毎年この時期、アンディは父親の墓参りに来ている。肌を刺す陽光、一面に広がる緑の絨毯、整然と立ち並ぶ墓石、何もかもがまるでその時を待っていたかのように同じ風景と保つ中、一つだけいつもと違う点があった。
「…今年は一人だけ、か」
 あきらめがちに歩を進める。
 毎年アンディの隣には兄の姿があるはずだった。だが、この1年の間、その消息はまったくつかめないでいる。そうしている間に父の墓石の前にたどり着くアンディ。
「久しぶりだね、父さん。だけど今年は、兄さんが…」
 いおうとして、言葉が止まる。父の墓が、1年ぶりの来訪にも関わらず、たった今磨かれたかのように光沢を放っている。その下には花が1輪だけ、そえられていた。確かに誰かがここにきたのだ。
「…これは…」

※ ※ ※

「またか…」 何度目だろう…。部屋に戻ると、ひどいありさまだ。こんなことがしばらく続いている。一連の流れの始まりは、そう、あの依頼を受けた日までさかのぼる…。
 その日の部屋は、肌にまとわりつくような蒸し暑さに満ちていた。  よどんだ空気を打ち破る電子音がこだまする。発信源は、その機能を果たさずに沈黙を保っていたノートパソコンだ。何週間かぶりに、メールボックスをチェックする。
「久々、ね」
 見落とす余地はない。私、マリー・ライアン宛のメールがたった1通、そこにあった。その頃は、新しい仕事の依頼というのが、まったくというほどきていなかった。まるでその依頼がくるのを待っていたかのように…。
「内容は、と…」
 かなり細かいところまで指示されている調査だった。中には、内部にまで潜入しないと調べられないようなことまである。調査対象は、『キング・オブ・ファイターズ』……。
「…久しぶりにしては大きすぎるヤマね…」
 私の勘が何かを告げるのには充分な材料だ。
「まずは、下ごしらえが必要、かな」
 さっそく、クライアントの調査に乗り出すことにした。妖しいとは思ったが、『キング・オブ・ファイターズ』を追っていけば、ある人物に当たるかも知れない、と思ったのだ。私が今探しているあの人に…。
 しかし、正直自分の身に何か起こるとは、この時点ではそれほど深く考えていなかった…。

※ ※ ※

 誰かに監視されているというのは明らかだ。
 しかし、ただの監視ではない。調査を専門とする私が、その痕跡がまったくつかめないほど完璧なもの、だ。こういう仕事をしている以上、色々と身に覚えはあるが、ここまで徹底されているのは初めてだった。ここ最近のエスカレートぶりを見ていると、おそらくは警告行為に出てきたという所だろう。
「この依頼、思ったよりずっと奥があるということか。これも余計なことしないで黙って依頼をこなせっていう警告だろうし…。本気でかからないと火傷くらいじゃすまなくなりそうね」
 私の中でやるべきことは決まった。
「そういうことなら、私も、徹底的にやらせてもらうわよ」
 使い慣れたメットを片手に外へ出る。
『同時に彼を捜すのは、ちょっと難しくなってきたか…』
 私はいつものように、バイクにまたがりエンジンをかけた。

※ ※ ※

「てことは何か、アンディ?それは今テリーがこの街にいるってことじゃねぇか!」
「その可能性は高いな。マリーでも手がかりがつかめない程だから、一時はどうなるのかと思ったけどね」
「フッ、やはり俺という存在、俺の持つオーラがテリーを呼び寄せたということか」
「…分かったジョー、もういい…。それより、マリーにこのことを知らせとかないと。ジョーは引き続き兄さんを捜して…何だ?!」
『ドガァーン!!』
 …アンディの言葉を遮る突然の爆発音。
「何なに?!」
 驚くアンディをよそにジョーが立ち上がる。
「…俺を、俺を呼ぶ声が聞こえる!」
 そういうと同時に走り去るジョー。
「ちょ、ちょっと待て、ジョー!! …まったく、ホント何しにきたんだ、あいつは…?」
 アンディもまた音のした方へと向かっていく。

※ ※ ※

 確かに自分に向けられる視線を感じた。冗談でも友好的とはいえないようなものだ。その時感じた何かが、俺の足をひきとめた…。
 そして今、その視線の主である男の後を追っている。男との間の人の波がだんだん激しくなってきた。それに伴い、男の姿がかき消されていく。
『チッ、見失うな…』
 瞬間、視界からその姿が消えた。
「…どこまで知ってる? テリー・ボガード!」
 その声は、まわりを見渡す時間すら与えてくれずに、背後から突然聞こえてきた。
『…!』
 何が起こったのか分からなかった。かろうじてその男を視界に入れつつ、俺は立ちつくす。
「マリー・ライアンともどもおとなしくしていればいいものを…」
 マリー? 緊張状態にありながらも、その名が頭に響いてきた。と、その時、
『ドガァァーン…』
 さほど離れていない場所から、爆発音が響いてくる。辺りがその音に動揺する中、その男と俺だけが、明らかにまわりとは異質な雰囲気を放っていた。
「…!」
 その時、張りつめた空気の中にわずかなほころびができたのを俺は見逃さなかった。

※ ※ ※

「かなり本気、みたいね」
 バイクのブレーキに細工がしてあるとは思わなかった。
 私を取り囲むようにできた人ごみから誰かが出てくる。
「何だ、マリーじゃねぇか?!」
「何、マリー?」
「ジョー、それに、アンディまで!」
 よりによって、こんな時に会うなんて、なんてタイミングの悪い…。
「フッ、やはり俺を呼ぶ声に間違いはなかったようだな」
「…嘘をつけ、嘘を。それにしても、ちょうど連絡しようと思ってた所だったんだよ。それがまさか、こんなことになってたとはね…」
「まあ、ね…そ、それより、私に連絡って、何? もしかしてテリーについて何か分かったとか?」
 ここで、実はね、とばかりにすべてを話してしまうわけにはいかない。私がこの件にとらわれている以上、この2人にはテリーのことに専念してもらわないと。だけど、テリーが見つかった所で、手伝ってくれ、なんていえないけどね…。
「そうそう、そうなんだよ!兄さんがこの街にいるかもしれないんだ!」
「うそ?!」
『ドサッ』
 その時、私たちの背後で何かが倒れた音がした。同時にに周りからざわめく声も聞こえてくる。振り返ると、そこには、意識を失い倒れている男の姿、そして懐かしい影があった。
「よお、ひさしぶりだな」
「テ、テリー…!」

※ ※ ※

 テリーの話からすると、その男は私のバイクに細工をした張本人に間違いないようだ。だけど、事情を説明すれば依頼のこと、いま私のまわりに起きていることをとぼけることはできなくなる。
「兄さん、今まで一体どうしてたのさ?! 何も連絡がこなかったから、ホントに心配してたんだよ!」
「ああ、すまなかったな…。それよりマリー、こいつは一体どうなってるんだ?」
 そういいながら、テリーが帽子を深く被り直す。
「…何でもない、といっても説得力ないでしょうね」
 もうごまかせない。私は今、抱えていることについて、すべて3人に話した。
「そんなもん、無視してバッくれればそれでいいんじゃねぇのか?」
「そういうわけにもいかないさ。そこまでしてくる奴らなら、依頼の方を無視しても同じことだと思うな」
「そんなら、マリーはそいつらのいいなりになるしかないってことになるじゃねぇか」
 そう。ジョーのいうとおり。だけど、クライアントがここまでする以上、この依頼は想像以上に厄介なものであることは間違いないだろう。そうなると……。
 その時、テリーが突然口を開く。
「オッケイ、分かった! じゃ、今年は俺達4人で出場だ!」
「ちょ、ちょっと、そんな簡単に?! 説明したでしょ?依頼をこなしても、ただで済む保証なんてないんだから。それに、これは私の仕事なの。同情とか感じてってことなら、助けは要らないわよ」
「同情なんかで命賭けるか!そんな簡単なものじゃないんだよ…そんな…」
 テリーが怒る顔は久しぶりだった。その顔に驚いた以上に最後の一言が引っかかった。
「そんな…?」
「…それだけだ…」
 その先にも何か言葉があるような、そんな気がした…。
 ジョーはお構いなしに続ける。
「まあ、大会に出ないことにはしょうがないだろ? 参加は1人じゃできないんだぜ?」
「た、確かに…でも、それでホントにいいの? 後戻りはできなくなるわよ?」
「当ったり前じゃねぇか!だがな、出場するからにはもちろん優勝狙うからなぁ、足引っ張るんじゃねぇぜ!」
 テリーがいいかけた言葉…、それが引っかかりはしたけど、正直、3人の協力はすごくありがたかった。何にせよ、この依頼は1人でどうにかできるとは思えなかったから…。そうなると、私も気持ち入れ替えないとね。
「まかせて。私が入れば戦力アップは間違いないわよ!…って、そうなると、アンディ…」
「何だい? あっ……舞が…」
 沈黙が流れる。やがて、帽子を深く被ったテリーがアンディの肩に手を置き、黙って首を振る。
「に、兄さん…」
 ジョーは相変わらずだ。
「しょうがねぇなぁ。舞ちゃんには俺がちゃんと説明しといてやるから、心配すんなって」
「…いや、お前はいい…。余計こじれそうだ…」
「ごめんねぇ、アンディ」
「ああ、どうしよう……」
 さすがに、こればかりはね…。他の人間が絡むと舞が余計に怒りそうだし。
「いや、こうなると、アンディが一番地獄だなぁ。いや、修羅場か?」
「……」
 ジョー、それはちょっといい過ぎかも…。


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