KOF’2000 サイコソルジャーチームストーリー




――中国。鎮の家の一室に伏している少年。その横に薫がついて少年を看病している。
そこへアテナが入ってきた。
アテナ「薫ちゃん、どう、包君の様子は?」
薫「えぇ、今のところは、特に。ただ、以前よりも熱は少しずつ下がってきているみたいです。」
 額にのせる手拭いを替えようとする薫。その合間にアテナが包の額に手をおく。
アテナ「そうなんだ、良かった……。ごめんね、薫ちゃん、包君の看病お願いしちゃって……」
 包の熱が下がっているのを確認し、アテナの表情が少し和むが、次は薫を気遣う表情に変わる。
薫「あ、いえいえ、全然かまわないですよ。それよりも包君、目覚まさないですねぇ……」
 前大会終了から包は、数ヶ月間原因不明の高熱を発しながら、ベットで横たわっている。
“原因不明”……これは、あくまでも医者がいった言葉であるが、鎮には、原因が分かっていた。

※ ※ ※

 数ヶ月前。
 首を傾げて帰る医者をよそに、鎮は何か納得したような口振りで3人に話し始めた。
鎮「……確かに医者では、原因が分からないかもしれん」
アテナ「お師匠さま、何か分かったのですか?」
鎮「そうじゃなぁ、あくまでも憶測にしかすぎんが……まず、これを説明するには、拳崇の件からになるのお」
拳崇「オレの力のことか?」
めずらしく勘のいい拳崇に鎮がうなずく。
鎮「そうじゃ。お主の力が徐々に弱まっていったのはいつの頃からじゃ?
拳崇「去年から」
鎮「具体的に」
 はっきりしない拳崇の代わりにアテナが答える。
アテナ「………包君がきてからだわ」
 アテナの言葉にうなずきながら、鎮が続ける。
鎮「そうじゃ。元々、ココに連れてくるまでにも、超能力者としての素質は感じておったが、ココで暮らすようになってからの成長は目を見張るものがあった」
アテナ「確かに、力としては私たちと同レベル、もしくはそれ以上だったかもしれないわ」
鎮「ワシはてっきり能力の開花だと思っておったのじゃが、そこにきて、拳崇のことじゃ」
拳崇「ん? ということは……包がオレの力を吸い取ってもうたっていうんかいな」
鎮「まぁ、そんな感じじゃないかと推測しとる。何故、お主だけかというのは分からんがの」
アテナ「今回のは、それが原因なんですか?」
鎮「アテナ・拳崇、お主らはこの前のことを覚えておるか?」
 アテナと拳崇の脳裏にネスツの基地を何とか脱出しようとしていた、あのときのことが浮かぶ。
アテナ「それが……あとから話に聞いただけで、ネスツの基地内で天井が崩れてくる所までしか覚えてないんです……」
拳崇「オレも、その中に無我夢中で飛びこんでいったのは覚えてるんやけど……」
鎮「ワシと薫ちゃんしか見ておらんかったんじゃが、あの時、拳崇はもの凄い力を解放しながらアテナを抱えて出てきたんじゃ」
拳崇「でも、あの時には、オレ、力ほとんどなかってんで……」
 それはおかしいという表情で拳崇が師匠に答える。
鎮「アテナを助けるために、お主の眠っていた潜在能力が引き出されたんじゃないかの。あと、この前後に包が倒れたところを見ると、一時的に包からお主へ力が“ふぃーどばっく”され、その相乗効果によって、あのパワーを引き出せたみたいじゃな」
アテナ「“ふぃーどばっく”って…。え、でも、じゃあ、その時の膨大なパワーって………まさか」
鎮「そうじゃ、今、包にすべて吸収されてしまっておる、その結果がこれじゃよ」
薫「拳崇さんが倒れたあとだったんです、包君が高熱をもつようになったのも」
 全員が包の方に目を向ける。
鎮「拳崇のように日頃修行によって心身を鍛えている者ですら、あの力を使ったあと、3日間起きなかったんじゃ。その力を、まだ体が出来上がってもいない包が吸収してしまったことで、飽和状態になってしまったんじゃろう」
拳崇「ってことは、今のオレ、ホンマに、ホンマに、スッカラカンかいな?」
 今度は鎮の方に全員の目が向く。一息ついて鎮が答える。
鎮「残念じゃが、そういう可能性は高い。でも、ワシはびっくりしたぞい、お主にあんな潜在能力があったとはな……」
拳崇「ひどうなぁ、お師匠さんも………でも今は、あんまうれしくないけどな………」
鎮「まぁ、一度とはいえ、一時的にでも力は戻ったんじゃ、少なくとも戻る可能性があることも確かじゃぞ。そう悲観的にならんとしばらく様子を見ようぞい、拳崇」
拳崇「そうやな………」
 あきらめとも、納得ともつかない言葉の拳崇を、アテナが見つめている。

※ ※ ※

 鎮も拳崇も出払い、アテナ、薫、包の3人となった部屋。目覚めない包を見守りながら、アテナが薫に話しかける。
アテナ「あ、そうそう、薫ちゃん。今年も『KOF』あるって、知ってる?」
薫「あ、はい。そうみたいですね」
アテナ「それで私たち『KOF』に出場することにしたの」
薫「でも、今年も4人なんでしょ?」
 意外、という表情で薫がたずねる。
アテナ「ええ」
薫「じゃあ、4人目のメンバー見つかったんですか?」
アテナ「いいえ、どうも、包君を出すみたいなの」
薫「え?だって、あれから数ヶ月間、目を覚ましてないんですよ」
 驚きと心配の表情を浮かべる薫。アテナも同じ様な表情を浮かべながら、薫に答える。
アテナ「うん、そうなんだけど……御師匠さまが“熱も徐々に下がりつつあるようじゃし、大会までには、力も安定して目を覚ますんじゃないかのう”って」
薫「でも、そんな……無茶なこと」
アテナ「私もそう思ったんだけど……」
薫「そう思うならどうして…」
困った表情でアテナが続ける。
アテナ「お師匠様がね、“少し荒療治になるが、安定したとて、今のままでは危険な状態に変わりない。飽和状態の力を解放するにはとっておきの機会になるじゃろうて”っていうの。御師匠さまなりに考えがあるみたいなのよ」
薫「そうですか……まぁ、拳崇さんのこともありますしね」
 しばらく間があったものの、薫の納得した答えを聞いて、アテナの表情が和らぐ。
アテナ「………うん………え、あぁ、ごめん、そろそろ代わるよ」
立ち上がり、薫と代わろうとするアテナ。薫が引き留める。
薫「あ、もう少し居ますから……大会までに、包君、目を覚ますといいですね……」
 包の方に目を移し、しっと見続けている薫。
アテナ「えぇ」
 返事だけすると、アテナもまた薫と同じく、包に優しい目を向けた。


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