KOF’2003 アウトローチームストーリー




 「ヘイヘイヘイ! どきなチンピラ。そこは俺の席だぜ?」
 「……」
 「シカトかよ。ギース様、このカンフー野郎、少し教育してやりましょうか?」
 「犬に譲る場所などない」
 「……よく聞こえなかったぜ。もう一度言ってみな?」
 「飼い犬の居場所は犬小屋だと言った。これで満足か?」
 「てめぇ……」
 「ヒャハハハ、いいぜ兄ちゃんたち。見物してやるよ。とっととおっぱじめな!」

 それが、初めて3人が顔を会わせた日の、それぞれの第一声だった。
 イギリス出身の棒術使い、ビリー・カーン。
 闇のブローカー、山崎竜二。
 そして、ゆったりとした拳法着をまとった長髪の男。
 「確かてめぇ、牙刀とか言ったよな。長生きしたけりゃ、口の聞き方を学習しな」
 「……」
 八極拳を始めとする剛系の拳法を使いこなすというその男は、まだ若く、
 がっしりとした体格で、そして周囲の空気を張り詰めさせる何かを持っていた。
 が、それで臆するような殊勝な人間は、この広い部屋の中に一人もいない。
 その彼らを一堂に集めることができる人物もまた、この街に1人しかいない。
 ギース・ハワード。
 ハワード・コネクションの総帥にして、古武術の達人。
 そして裏社会に巨大な権力を持つ、闇の支配者である。
 「手をとって親愛のダンスを踊れ、とは言わんが……」
 苦々しく葉巻を揉み消したギースは、深く腰掛けたまま、革張りのイスを
 180度回転させ、全員に背を向けた。
 「クライアントの前では、もう少し仲の良いフリをしてはどうだ?」
 周囲を見下ろす高層ビルの最上階からは、彼の街、サウスタウンが一望できる。
 「クライアントだと? この俺を雇ったつもりか」
 牙刀は立ち上がった。
 「くだらん。俺は格闘大会などに興味はない。帰らせてもらうぞ」
 ビリーは肩をすくめ”好きにするがいいさ”と小さく呟き、ギースは背中を向けたままで言った。
 「この街……サウスタウンには、様々な人間がやってくる」
 牙刀はギースの言葉を無視して、ドアに足を向けた。
 「例えば、行方不明の兄を探している日本人の少女とか、な」
 牙刀の足が止まった。
 「だから何だ。俺には関係ない」
 「それはそうだ。だが、この街には他にも大勢人間がやってくる。
  貴様によく似た拳法使いが、その中にいたとの報告がないこともない」
 ハワード・コネクションは、サウスタウンのあらゆる情報を手中に収めている。
 牙刀もそのことは重々承知している。
 「ヤツがこの街に? 何の目的で……まさか、KOFに」
 「それはわからん。だが、数百万の人間の中に紛れ込んだ男を、貴様一人で
  探すのは不可能だ。簡単な話ではないか? 貴様は大会で優勝する。
  私は貴様の目的をかなえてやる。貸し借りはなしだ」
 「……フン。よかろう。その話、のってやってもいい」
 「ケッ、面白くねえ野郎だ。ギース様、俺はこいつらと出場するくらいなら、
  犬とでも組んだほうがマシだと思いますがね」
 「ギャハハハ、てめぇはなにしろ飼い犬だからな。犬同士で気が合うだろうよ!」
 「山崎てめぇ……」
 「おっと、犬が客に吠えかかるたぁ、躾がなってないぜ。なぁギースさんよ?」
 「薄汚ぇヘビ野郎が。静かにさせてやろうか? あぁ?!」
 「よさんか、ビリー」
 ビリーも血の気が多すぎる方だし、山崎にいたっては血を見るのが何よりの楽しみ
 という屈折した精神構造を持っている。ギースという存在がこの場にいなければ、
 5秒もたたないうちに血みどろの殺し合いを始めたことだろう。
 「……とにかくだ、今回のKOFには、お前たち3人で参加してもらう。
  報酬は充分にくれてやるし、必要な情報は組織を上げて調査してやる。
  これはビジネスだ。それも破格の好条件だと思うがね」
 山崎は表情に狂気を漂わせ、ニヤニヤと笑い続けている。
 牙刀は無表情のまま、ギースから視線を外さない。
 ビリーは不満と不快を露にしてはいるが、ギースへの忠誠心はそれを上回るようで、
 今は構えていた自慢の棒も手元に収め、おとなしくしていた。
 「異存がないなら結構だ」
 ギースはイスを再び回し、結成されたばかりの「チーム」のメンバーに顔を向けた。
 「貴様等にチームワークなど期待してはいないが、KOFで優勝はしてもらう。
  それ以外の結果で報酬を期待してもらっては困るぞ」
 「それ以外の結果?」
 口調には皮肉も冗談も混じっていない。牙刀には揺らぐことのない自信があった。
 己の力に対する自負が、それを言わせた。
 「俺が参加する以上、結果はひとつだ。優勝してやる」
 「結構だ」
 「おいおい、寛大なギース様よ。俺のお願いは聞いてくれねえのか?」
 「……またギャラがどうのとオフィスで暴れられては迷惑だ。言ってみろ」
 「血だよ」
 「……血、だと?」
 「最近俺ぁ血が騒いで仕方ねぇんだよ……試合でちっとばかし『やりすぎ』ちまう
  かも知れねぇが、そのへんはよろしく頼むぜぇ」
 ギースの目が冷ややかな光を帯びた。が、それも一瞬のことである。
 「好きにしろ。『事故』で処理できる範囲でなら、な」
 「ヒヒャハハハハ!! ありがてぇぜ! これでやる気も出るってもんだ」

 「話はそれで終わりだな? では大会当日まで、せいぜい骨休めしておくがよかろう」


 牙刀と山崎が部屋を後にすると、中にはギースとビリーだけが残された。
 「ギース様、今回の大会のことですが……」
 「そのことだがビリー、貴様には伝えておかねばならんことがある」
 「はっ」
 「山崎の行動を監視するのは当然だが、あの牙刀という男からも目を離すな。
  特に奴に接触してくる人間がいたら報告しろ」
 「承知しました。ところでギース様、今回のKOF、主催者はいったい誰なのです?」
 「……」
 ギースは答えず、再び革張りのイスの背を向けた。
 沈黙の後、一礼してビリーも退室した。


 チームの3人が再び一堂に会するのは、大会当日のことになる。


BACK  HOME