KOF’96 サイコソルジャーチームストーリー




 「タアッ!」
 「テヤッ!」

 深い山奥に声が響き渡っている。その声は古びた寺から聞こえて来るようだ。
 そこで修行している二人の姿が見える。

 アテナ「はいっ!今日はここまでにしましょ」
 ケンスウ「ふうっ、やっと終わりかいな。随分疲れたで」
 アテナ「なぁに言ってるの、ケンスウ。すぐ弱音を吐くなんて、男の子でしょ!」

 ケンスウはそういわれつつも嬉しそうである。
 ああっ、アテナはいっつもキツいなぁ。まっ、そこが好きなんやけどな。
 キツい修行もアテナと一緒に出来るなら、それほど苦にもならへんけどな。
 そう思うケンスウ、今日このごろである。

 ケンスウ「そういやあ、お師匠さん遅いなあ。街に朝出掛けたまんままだ帰ってこうへんでぇ」
 アテナ「そういえば、随分と遅いわねえ」
 ケンスウ「また、酒でも一杯やってるんとちゃうか?」
 アテナ「そうかもしれないわね。お師匠様好きだから、お酒」

 汗をタオルで拭きながら、師匠の帰りを待つ二人。
 師匠が今、どうなっているか、知る由もない弟子達であった。
 にぎわいを見せる街の大通りで、群衆が二人の男を取り囲んでいる。
 頑強そうな男と、老人が対峙している。
 頑強そうな男はかなり疲労しているわしく、肩で息をしている。
 老人の方は全く疲れた様子も見せず、まるでこの格闘を楽しんでいる様にすら見える。

 老人「ほれっ!」

 気合いと共に、老人=チン・ゲンサイの必殺技、瓢箪撃が相手にヒットした。
 頑強そうな男がたまらず呻いた。

 男「わ、悪かった、じいさん。
    あんたがキング・オブ・ファイターズに出場していた事は認める。許してくれ」
 チン「なんじゃい、もう終わりかい。こんな年寄りに負けるとは情けないのう」

 その男は照れ臭そうにしていたが、急にふと思い付いたように、話し始めた。

 男「そうだ、じいさん。今度のキング・オブ・ファイターズの事知ってるかい?」
 チン「なんじゃと、キング・オブ・ファイターズじゃと!?」
 男「ああ、今までの大会と違って、今回はデカいスポンサーがいくつもついて、TVや
    新聞でも大々的に宣伝してるぜ。まあ、今回の公式大会でキング・オブ・ファイターズは
    一躍メジャーだな。おい、じいさん、どうしたんだ?」

 男が話しかけている言葉は、老人の耳には全然届いていなかった。
 キング・オブ・ファイターズ。
 夕暮、古寺で食事をする三人の姿があった。
 いつもは陽気に話をしながらの食事が、今日はいつもと違っていた。

 アテナ「どうしたのかしら?お師匠様、元気ないみたい」
 ケンスウ「そうやなあ、いつもとえらい違うなあ」

 三人が食事を終えると、老人がいつもと違う口調で話し始めた。

 チン「お前達、少し話があるんじゃが、よいかのう」
 ケンスウ「え? 何ですか、お師匠さん」
 チン「実はな、近くキング・オブ・ファイターズの大会があるそうじゃ」
 ケンスウ「ああ、ようテレビで宣伝してますやん」
 チン「何? おぬしら知っておったのか!?」

 老人は拍子抜けし、聞き返した。

 アテナ「あんなに宣伝していたら、いやでも耳に入って来ますよ」
 ケンスウ「それで、勿論出場しはるんでしょ? それに今回は公式大会。
       前みたいに主催者の野望とか関係ありませんやん。
       どこまでやれるのか、ええチャンスやないですか!」
 アテナ「私もケンスウの意見に賛成です。お師匠様、ぜひ参加しましょう」

 二人の会話を聞きながら、チン・ゲンサイは前回の大会を思い出していた。

 チン「(前回でルガールは自らの力によって消滅した。この世に悪党は多いが、
      あれほどの力をもった悪党はそうはいまい。今回は公式戦と聞く。
      主催者もはっきりしておる様じゃし、本当の意味での腕試しが出来るかもしれん、
      しかし……)」
 ケンスウ「お師匠さーん!」

 チン・ゲンサイの顔を覗き込み、沈黙を破ったのはケンスウだった。

 ケンスウ「どないしたんですか?」
 チン「う〜む…。じゃがな、おぬし達の修行の意味は、あくまでも来るべき最悪の事態に
     備えて、一人でも多くの人々を救うためのもの…。
     じゃが、今回の大会にはその意味がない。
     ただの腕試しで、ぬしらの力をつかうのもどうかと思うのじゃが…」
 ケンスウ「お師匠さん。力試しも修行の内やで。それに今までの大会も、オレらの力に
       対抗する力をもった連中がうようよ出とるやないですか。
       井の中の蛙大海を知らず、ちゅうヤツになっても困るんとちゃいますか!?」
 アテナ「そうです!私達もまだ未熟者!実践で鍛えるのも大切な修行の一つだと思います」
 チン「……どうやらお前達はワシが思っているよりもずっとしっかりしとる様じゃな。
    逆にワシが説教されるとは……」
 ケンスウ「オレらも、もう子供とちゃいますからね!」
 チン「ふむ…よし分かった!じゃあ出場するとするかのう!」
 ケンスウ「やったぁ!さすがお師匠さんや!物分かりがええで!」
 アテナ「ありがとうございます。お師匠さん」
 ケンスウ「はぁ、何かそうと決まったら腹へってきたな」
 アテナ「またなの!もうケンスウったら意地汚いんだから!」
 ケンスウ「うるさいなぁ!オレはええ事言うた後には腹が減るんや!
       よぉ〜し!オレの力を全世界ネットでみせつけたるでぇー!」
 アテナ「ケンスウ!あんまり軽い気持ちだと、ソッコウで負けちゃうよ!」
 ケンスウ「わかってるって、アテナ!押すところは押し、引くところは引く。
       オレももう昔のオレやないて」
 アテナ「だったら、いいけど…」

 チンは二人のやりとりを見つめて目を細め、温かく見守っている。そして心の中で呟いた。

 チン「実はお前達を出場させたくない理由はそれだけではないのじゃがな…。
     どうも今度の大会には何か嫌な予感がするのじゃ…。
     ワシの取り越し苦労だとよいのじゃが」

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