KOF’97 八神 庵ストーリー




 雨の降りしきる騒がしい街中を、男が傘もささず歩いている。
 赤い髪、赤いボンデージパンツ・・・
 一見するとバンドマンであるというのが見てとれる。
 だが、その男には外見からは到底言い切れぬ何かがあった。
 その男のかもしだす雰囲気にただならぬものがあったからである。
 全身ずぶ濡れであっても男の目は爛々と輝いていた。
 妖しく光るその瞳は、何を見ているのだろうか・・・

 ふと、男は大型の液晶ビジョンの前で立ち止まった。

 「・・・恒例のキング・オブ・ファイターズ97年度参加者は、以下の通りです」
 「・・・・・・・・・」

 男は立ち去ろうとした。
 しかし、その後の放送を聞いて立ち止まった。

 「・・・日本チームは草薙 京、二階堂 紅丸、大門 五郎選手が出場します。
  なお、シード選手として、八神 庵選手が・・・」
 「!?」

 自分の名前を呼ばれて男は苦笑した。

 「ククッ、神楽、あの女の差し金か・・・。
  そうか、京・・・貴様もまたあのくだらん大会に出場するのか・・・」

 男はそうつぶやきながら、その場を離れた・・・
 渦巻く憎しみが男の心を締め上げていた。
 快楽にも似た憎しみが全身を揉ませている。
 憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪憎悪・・・・・・・・・
 憎憎憎憎憎・・・・・・・・・

 「ぐおお・・・」

 男はうめいていた。

 「クスクス・・・」

 どこからか、笑い声が男の耳に入ってきた。

 「誰だ・・・」
 「庵・・・まだ京を倒せない様ね・・・クスクス・・・」

 暗闇から光る目が浮かび上がってきた。

 「フンッ、おまえ達か」

 それはいつのまにか男の足下に近づき、蠢いていた。
 女が二人。見慣れた顔だった。
 奇妙な事に、女達は裸で血を這い回っていた。
 そのヌラヌラと動くさまは、まるで蛇そのものだった。

 「ククッ、死に損ないか・・・」
 「クスクス・・・その程度で倒れている様では、とても京には・・・」
 「黙れぇいっ!」

 ブオッ!

 闇払いが血を駆けた。だが、蒼き炎はその者達を素通りした。

 「クスクス・・・庵・・・また会いましょ・・・その時は・・・」

 女達は、そう言い残すと、暗闇に消えていった。

 「クックックッ、京!貴様のおかげで化物まで見える様になったぞ!」

 男は叫んだ。

 「京―――――!」

 ガバッ!
 男はベッドから起きあがった。

 「ゼー・・・ゼー・・・」

 あたりを見回した。何もない部屋。
 そう、部屋にはベッド以外何もなかった。いつもの何もない空虚な部屋・・・

 「・・・夢・・・ごっ、ゴフッ」

 男は咳きこんだ。口元にやった手を見ると、血が飛び散っていた。
 その血を拭くのも面倒といわんばかりに、そのまま男はベッドに横になった。
 そしてしばらく薄汚れた天井を見つめていた。

 「フッ、京、貴様と俺の運命・・・どちらが、先に倒れるか・・・」

 男は薄笑いを浮かべた。

 「フハハハッ!京! お前の声! お前の顔! 誰よりも! そう、この世の誰よりも!!
  この世界で最も憎いのはお前だ! 京! 俺の願いは、ただ一つ!
  貴様を殺す事だけだ!! ハアッハッハッハッ!!」

 男は笑っていた。
 その哀しげな笑い声は部屋中に満ち溢れ、いつまでも続いていた。

BACK  HOME