KOF’97 矢吹 真吾ストーリー




 真吾「パン買ってきました!!」

 学校の昼休み。後者から死角になる中庭の片隅に一人の男がいる。
 すっかり葉の落ちた木に、もたれ掛かるようにしながら寝ているその男のもとに、
 真吾はパンを抱えて走っていく。

 真吾「えーっと、今日は『焼きそばパン』と『コロッケロール』にしました」
 男「んーっ、あぁ・・・」
 真吾「あと、これがコーヒー牛乳です。それじゃぁ、ココ置いときますね」
 男「あぁ」

 真吾がパンを買い、ここに訪れる様になって、もう3ヶ月以上になる。

 男「じゃ、また今日から、新しい技だったな・・・」

 男は、その焼きそばパンを袋から取り出し、一口かじると、立ち上がり、
 先程までもたれていた木から、適度に間合いを開けた位置まで下がる。

 男「一回しかしねぇからな」
 真吾「はい!!」

 と、その男は、突然その木に向かってパンチを繰り出した。

 男「ボディーが!! あまいぜ!!」

 バスッッッ!!!

 木が激しく揺れる。この木、よく見れば、かなり削れた跡があったり、ところどころ焦げている。
 この木にだけ葉が茂っていないのも、毎回サンドバッグがわりにされているせいだろう。

 真吾「あっ! これ『荒咬み』ですね!!」
 男「ほぉー、さすがは真吾くん、よくお勉強してるねぇ」
 真吾「いやー。去年、TVで見たんですよ!たしか、準決勝で椎 拳崇を倒した技ですよね!」
 男『そこまでは、覚えてない・・・』
 真吾「えっと・・・ここはこーで・・・こーやって・・・こう、か・・・」

 真吾は男の動きを頭の中でシミュレーションし、覚えようとしている。

 真吾「でも、昨日は『レインボー(R)・エネルギー(E)・ダイナマイト(D)・キックだ!』
     っていう話だった様な気がするんですけど・・・」
 男「そんなこと言ったっけかなぁ?」
 真吾「まぁ、いいんですけどね。で、『荒咬み』って『何式』なんですか?」
 男「んー、百・・・拾・・・五式・・・か」
 真吾「それは、この前の『毒咬み』じゃぁ・・・」
 男「あぁ、そうだな。じゃあ『百拾四式』だな」
 真吾「もぅ草薙さん、間違えないでくださいよぉー」

 真吾は怒っているが、心底楽しそうである。

 真吾「えっと、・・・百・拾・四・式・荒・咬・み・・・っと」

 真吾は生徒手帳に素早く記入すると、その『荒咬み』という技の動作を、見様見真似でしてみせた。

 真吾「こんな感じですか?」
 京「お、いけてる、いけてる、そんな感じ」
 真吾「あ、本当ですか!!ありがとうございます、草薙さん!!
     あとは、いつものことながら『炎』ですよね?」
 京「『炎』ねぇ・・・」
 真吾「今まで出たためしがないんですけど、でも、なんか今回のは、今まで教わった技と違って、
     もう少し頑張ったら、炎が出そうな気がするんですよ!!」
 京『それは気のせいだ・・・』
 真吾「だから、おれ、草薙さんみたいに、炎が出るまで頑張って練習します!!」
 京「おう、おまえなら出来る、頑張ってくれたまえ。じゃあ、オレ、戻るわ」

 真吾が買ってきた昼食を持って、先程のパンをかじりながら校舎に戻っていく。

 真吾「草薙さん、ありがとうございました!!」

 深々と頭を下げ、見送る真吾。

 京『覚えは良いんだけどな・・・ちょっと・・・』

 こっちを振り返らず、右手を軽く上げて帰っていく京。

 京「じゃーな、努力しろよ」

 京が校舎に消えていくと、真吾はさっき見た技を思い出しながら、練習を始めだした。

 真吾「よし!!『荒咬み』をマスターするぞー!!!」

 ところで、この二人「同じ高校の先輩・後輩である」という以外はなんの接触点もなかった。
 ところが、数ヶ月前、京の前に「矢吹真吾」なる青年が、突如現れ・・・。

 真吾「草薙 京さんですよね?」
 京「あぁ、そうだけど・・・誰?おまえ」
 真吾「2年の矢吹真吾っていいます。草薙さん!おれに技を教えてください!お願いします!!」
 京「はぁ?」

 これが、真吾との初めての会話である。どうも「KOF96年大会を見て、京に憧れて」との事らしい。
 最初は、軽く断っていた京だが、結局これをきっかけに、最終的には、真吾に自分の技を
 教える事になったのである。とはいえ、教えたところで「草薙の一族」でない彼が、
 炎を扱えるわけでもなく、今日教えた「荒咬み」も、ただパンチをくりだしているだけに過ぎない。
 それにも拘わらず一生懸命練習する真吾に、京は「面白半分」と「いいぱしり」程度の気持ちで、
 教えているといった感じである。

 真吾『・・・こーで・・・こーやって・・・こう・・・』

 今までこういったやり方だったので慣れているのか、
 一回しか見てないわりには、技の動きは様になっている。

 真吾『よし、だいたい動きがわかってきた・・・こんな感じかな?』

 真吾は、いったん構え直し、精神を集中すると、一心に拳を打ち出した。

 真吾「ボディーがあまいぜ!!」

 やはり、端から見てるとただのボディーブローである。
 キ―ン、コ―ン、カ―ン、コ――ン
 昼休みの終了を告げるチャイムが校舎中に響く。
 校庭や様々な所で、昼休みを過ごしていた生徒達が、校舎に吸い込まれていく。

 真吾『さてと、おれも戻るかな・・・』

 放課後。
 昼過ぎあたりから天候が急に悪化し、昼は小雨程度だったものがすっかり本降りになっている。
 かさをさして帰る者。傘を忘れ濡れながら去って帰る者。
 下駄箱のあたりで小雨になるまで待っている者と、さまざまな様子が見られる。

 真吾「ボディーがあまいぜ!!!」

 その雨の中、真吾はいつもの中庭で、京から教わった技を練習していた。
 放課後に、人気のないその中庭で、練習するのはもはや日課となっており、
 『一式』に始まり、今日教わった『荒咬み』まで、天候に拘わらず、毎日欠かした事がない。
 ところが、最近、練習だけでは限界があるのを薄々感じてきた。

 真吾「はぁはぁはぁ、まだまだか・・・」

 少し休憩を入れようと、雨の中地面に腰を下ろす。
 そして、昼間から悩んでいた事を思い出し、どうしようか考えていた。

『キング・オブ・ファイターズ』

 これがあったからこそ、去年の夏TVで京を見て以来、『京にあこがれ』その京に一歩でも
 近づこうとしている、今の自分がある。そして、今年の夏も行われる。

 真吾『キング・オブ・ファイターズ出場・・・でも、闘えるのか・・・おれが・・・』

 数ヶ月前、自分が人と闘うなんて考えた事はなかったし、その為に技を学んだわけでもなかった。
 でも、今は違う・・・。

 真吾『出場して、草薙さんに一歩でも近づきたい!』

 しばらく悩んでいたが、ふと、何かが吹っ切れたかのように、決意を固めた。

 真吾『そうだな・・・ダメもとでやってみるしかないか!』

 すると、また立ち上がり、気合いを入れ、もう一度練習をはじめた・・・。

 この後真吾は、無事にキング・オブ・ファイターズ一般個人予選大会を勝ち進み、
 決勝大会出場を果たす事になる。

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