K.O.F'EX メインストーリー



EX2 プロローグ    EX2 ストーリー



〜 NEO BLOOD ストーリー 〜


 高く澄んだ大空冒涜し、母なる大海原を凌辱し、
 緑なす永遠の大地を蹂躙した人というモノを粛清すべく、
 長きにわたる眠りより目醒めた地球意志“オロチ”――
 そのオロチなる絶対存在が、三種の神器と呼ばれる者たちによって
 人知れず封印されてから、数ヵ月がすぎていた。





 「確かにオロチは封印されたのかもしれん。
  ――が、その血はいまだにあの男の中に流れている。
  実に興味深い‥‥面白い男だ」

 「オレに任せてもらえりゃ、アイツがそんなにご大層なヤツじゃない
  ってことを5分で証明してみせますよ」

 「まだ根に持っているのか?」

 高い塔の最上階から下界を睥睨していた男は、
 鼻息の荒い部下のセリフに皮肉っぽく笑った。最高級のスーツに身を包み、
 革張りの椅子にゆったりと身をうずめている男の姿は、
 世界の経済界に重きをなす一大コネクションの総帥にふさわしい
 ものだったが、部下を一瞥したその眼光は、ビジネスマンというより
 猛禽のそれを思わせる。傲慢なまでの猛々しさをスーツに包み隠した男は、
 部下を振り返ってひとつ釘を刺した。

 「――だが、あの男の力を見極めるのはおまえの役目ではない。
  他にもっと適任がいる」

 「あの小僧のことですか?」

 「ああ。‥‥そろそろ招待状を配らねばならんな」

  頬杖をつき、男は目を細めた。





 オロチの存在を知るごくわずかな人々が、
 オロチとの戦いがあったという過去をようやく忘れかけていたある日、
 ひっそりと人目をはばかるように、しかし明確な意図をもって、
 世界各地の格闘家たちのもとへ差出人の定かでない白い封筒が届けられた。


 『キング・オブ・ファイターズを開催する』


 招待状を受け取った格闘家たちは、ある者はおのれの実力を確かめるために
 ――またある者は、その裏に隠されている後ろめたい何かを感じ――
 大会参加の決意を固めていた。そしてその中には、オロチとの激闘ののち、
 久しく行方知れずになっていたあの若者の名前もあった。
 かつてのチームメイトである二階堂紅丸、アメリカで知り合った葉花 萌とともに、
 ふたたびKOFの舞台へと戻ってきた“払う者”――草薙 京。

 「俺がこうして生きてるんだ、
  あいつだけがあっさりくたばったって考えるのはムシがよすぎるか‥‥」





 「予想通りのメンツがエントリーしてきました。
  どいつもこいつも見慣れたツラばかりですよ。
  ちょっとした同窓会ってカンジですね」

 「そうか‥‥」

 部下の報告を受けた男は、
 ゆっくりと視線を転じ、壁にもたれてたたずむ長身の青年を見やった。

 「――これで舞台と役者は揃った。きみの感想を聞きたいが?」

 「‥‥‥‥‥‥」

 じっと腕を組んで瞑目したまま、赤毛の青年は答えない。
 精悍な横顔はあくまで無表情で、心ここにあらずといった風情だった。
 そんな青年の顔色を観察しながら、男が面白そうに問いかける。

 「まだ何か不満があるのかね?」

 「‥‥もし俺が満足することがあるとすれば、
  それはこの手で奴を殺したその時だけだ‥‥」

 無愛想にそうもらし、青年は前髪の奥の瞳を開いて窓の外を見つめた。
 どぎついネオンに彩られていた夜の街が、静かに朝を迎えようとしていた。
 剣のような三日月がその輝きを失い、代わりに目映い光をともなって
 日輪が登ってくる。決して交わることのない月と太陽が邂逅する、
 束の間の逢瀬の時がやってきた。
 オレンジ色の曙光に背を向け、青年は不意に歩き出した。

 「‥‥奴が来たら呼べ。俺の狙いは奴だけだ」

 「おい、どこへ行く!? 勝手な真似すんじゃねえ!」

 「構わん、放っておけ」

 「ですが――」

 スーツ姿がいささか似つかわしくない狂犬のような雰囲気を漂わせた男は、
 青年が姿を消したドアを見据えて奥歯をきしらせた。

 「よろしいのですか? 監視をつけておいたほうが‥‥」

 「監視などつけても無意味だろう。
  その気になれば、あれは監視している連中を平然と皆殺しにして
  姿をくらませることのできる男だ」

 「だったらオレが――」

 「それも無用だ。
  あの小僧が勝ち上がってくれば、あの男は呼ばずとも自分で戻ってくる」

 男が朝日を見つめて唇を吊り上げる。獲物を前にした猛禽の笑みだ。

 「――差し当たって、我々はただ楽しめばよいのだ。このショーをな」








〜 HOWLING BLOOD プロローグ 〜


 ギース・ハワードによって開催された前回の「KOF」から数カ月――
 それは、ある奇縁で結ばれた者たちにとっては、
 一度は止まったはずの時計の針を巻き戻したにも等しい行為だった。

 新たな戦いを告げるように、
 世界各地の格闘家の元に「KOF」からの招待状が届く。
 特殊な力を持つ人と異なるオロチ一族。
 その封印を見守る神楽ちづるのもとにも、同様に封書が届いた。
 そのちづるの所へ、幼い女の子を抱いた長身の男 大神零児が現れる。

 「‥‥ここしばらく、"封印"の様子がおかしいの。
  何かが"封印"に働きかけているのを感じるのよ。
  そのせいでかなり不安定になっているわ」

 「なるほど‥‥で、その何かってのは見当がついてんのかい?」

 「おおよそはね」

 ちづるは一通の封筒を零児に投げ渡した。
 それを一瞥した零児の目がすっと細くなる。

 「ふぅん‥‥今回もまたKOF絡みってわけか」

 「どうやらそうらしいわ。
  ただ、わたしは封印を守るためにここを動くことができない。
  だからわたしの代わりにあなたに出場して欲しいの」

 「そいつは構わないが‥‥残りのふたりは?」

 「草薙 京と葉花 萌。ふたりともアメリカにいるわ」

 「草薙 京はいいとして‥‥ふぅん、萌ちゃんか」

 「ええ。あなたと同じ"十種神宝"のひとりよ。
  八握剣は十種神宝の中でも特に武門に長けた一族、
  今は未熟でも、将来的には誰よりも強くなる可能性を秘めているわ。
  ‥‥もちろんあなたよりもね」

 「それはそれは‥‥行く末楽しみなホープだこと」

 上着のポケットに招待状をねじ込み、零児は大袈裟に肩をすくめた。

 「やってくれる?」

 「OKOK、天羽家のこともあるし、
  十種神宝が関わってくるとなれば知らん顔もできないしね。
  何より、他ならぬちづるちゃんの頼みじゃ断れないさ」

 零児は興味津々といった表情で鯉を眺めていた娘を抱き上げ、
 ちづるにウインクをして歩き出した。

 十種神宝――
 それは、神話の時代からオロチの力に対抗する三種の神器を
 陰ながら支えてきた者たちの総称である。








〜 HOWLING BLOOD ストーリー 〜


 ギース・ハワードによって開催された前回の『K.O.F』から数カ月――
 それは、ある奇縁で結ばれた者たちにとっては、
 一度は止まったはずの時計の針を巻き戻したにも等しい行為だった。
 自覚していようといまいと、
 彼らにとって、それは新たな戦いの始まりでしかなかったのである。




 余計な飾りを削ぎ落とした、美しさと落ち着きが見事に溶け合った瀟洒な庭に、
 和服姿の神楽ちづるが立っていた。
 普段はパンツルックですごすことの多い彼女だが、
 純和風な顔立ちと艶やかな黒髪のおかげで、そうした装いもよく似合う。
 庭先の池の鯉に餌を与えていたちづるは、
 ふとその手を止めて母屋のほうを振り返った。
 一体いつそこへやってきていたのか、
 幼い女の子を抱いた長身の男が濡れ縁に腰かけ、ちづるをじっと見つめている。
 やに下がった笑みを浮かべた男は、
 すっと立ち上がって芝居がかった仕種でちづるに一礼した。

 「大神零児、ちづるちゃんのお召しによりただいま参上‥‥」

 「ちゃん呼ばわりはよして。もう子供じゃないわ」

 「細かいこというなよ。急ぎの用事なんだろ?」

 「ええ」

 ちづるは零児が抱いていた女の子をそっと手招きすると、その頭をそっと撫で、
 鯉の餌を手渡した。年の頃は2歳ほどだろうか、
 にっこり笑ってお辞儀をした女の子は、ちょこちょこと池のほとりに立って
 餌をまき始めた。愛らしいその姿を見て微笑んでいたちづるは、
 その表情を引き締めて零時に向き直った。

 「‥‥ここしばらく、“封印”の様子がおかしいの」

 「“封印”が? この前封じたばかりだってのに、まさかもう解けるのか?」

 「今すぐにどうこうということはないでしょうけど、
  不安定になっているのは確かだわ。
  ‥‥何かが“封印”に働きかけているのを感じるのよ」

 「で、その何かってのは見当がついてんのかい?」

 「おおよそはね」

 ちづるは帯の内側から一通の封筒を引き抜き、零児に投げ渡した。

 「‥‥これは?」

 「KOFの招待状よ」

 「ふぅん‥‥今回もまたKOF絡みってわけか」

 「どうやらそうらしいわ。
  ただ、わたしは封印を守るためにここを動くことができない。
  だからわたしの代わりにあなたに出場して欲しいの」

 「そいつは構わないが‥‥残りのふたりは?」

 「草薙 京と葉花 萌。ふたりともアメリカにいるわ」

 「草薙 京はいいとして‥‥ふぅん、萌ちゃんか」

 「ええ。あなたと同じ“十種神宝”のひとりよ。
  八握剣は十種神宝の中でも特に武門に長けた一族、
  今は未熟でも、将来的には誰よりも強くなる可能性を秘めているわ。
  ‥‥もちろんあなたよりもね」

 「それはそれは‥‥行く末楽しみなホープだこと。
  早く成長してオレの代わりに働いてくれると助かるんだがね」

 上着のポケットに招待状をねじ込み、零児は大袈裟に肩をすくめた。

 「やってくれる?」

 「やってくれるも何も、他ならぬちづるちゃんの頼みだ、断れないでしょ」

 「ありがと。‥‥草薙には手を焼かされるかもしれないけど、
  あなたのほうが大人なんだから、うまく手綱を取ってちょうだい」

 「OKOK、判ってるよ。‥‥天羽家のこともあるし、
  十種神宝が関わってくるとなれば知らん顔もできないしね」

 最後にそうひと言つけ足した零児は、興味津々といった表情で
 鯉を眺めていた娘を抱き上げ、ちづるにウインクをして歩き出した。

 「ばいばい」

 零児に抱かれた少女が無邪気に笑ってちづるに手を振る。
 袂を押さえて手を振り返したちづるは、
 歩み去る零児を見送って満足げにうなずいた。
 一見するとにやついた優男のように思えるが、
 しかし、芝生を踏んでもほとんど足音を立てることのない
 その身のこなしを見れば、この大神零児という男の非凡さが判る。
 神楽ちづるが自分の名代として選び出した男であれば、それも当然のことだろう。

 十種神宝――
 それは、神話の時代から三種の神器を陰ながら支えてきた者たちの謂いである。




 すでに日付の変わった深夜――地下鉄のホームのベンチに、少女が座っている。
 艶光る長い黒髪が印象的な、物静かな美少女だった。
 ホームに滑り込んできた銀色の電車が、乗客たちを入れ替え、
 また走り去っていく。しかし、少女は電車に乗り込むでもなく、
 かといって誰かを待っているふうでもなく、ただじっとベンチに座り、
 プリーツスカートの上で握り締めた手を見つめていた。
 少女がそこに座ってから何本目かの電車が走り出し、
 ホームに終電間際の静けさが落ちてきた頃、ハイヒールの硬質な足音を響かせて、
 少女の前を大柄な人影が横切っていった。

 「‥‥いろいろモメたけどようやく決まったよ」

 間にひとつ席を空けて少女の隣に腰を降ろした美女は、
 オレンジに染めた髪をかき上げ、正面を向いたままそう呟いた。
 ゆったりと組まれたパンツルックの脚が驚くほど長い。
 モデルばりのプロポーションに、
 ヒール込みなら優に二メートルを超えるような長身、
 そして人目を惹かずにはおかない華やかな美貌――
 滅多にお目にかかれない大柄な美女である。

 「三種の神器だの十種神宝だの、カビが生えたような時代錯誤なシロモノに
  いつまでもこだわってるような連中だから、
  こういう大事な時にさくさくっと決断ができないんだよ。
  ジイサマたちが顔突き合せて考えるまでもない、
  一番強いヤツを選んで送り出せばいいだけのことだろうにさ」

 侮蔑の色の窺える口調で吐き捨てた美女は、横目に少女を見やって続けた。

 「――ウチは当然このわたし、黒咲家はあんただ。
  考えるまでもなく判りきってるはずのことを、ああでもないこうでもないって
  何日もかけて決めるんだから、まったく老人てのは気が長いね」

 「‥‥もうひとりは?」

 長く瞳を伏せていた少女が、その姿勢のまま、美女に尋ねる。

 「ホントなら天羽家の人間を連れてくのがスジなんだけど、
  あの子を除けばあそこはロクなのがいないからね。
  よそからひとり連れてくことにした」

 「‥‥‥‥」

 天羽家――その名を聞いた少女のまつげがかすかに震えた。
 それまでずっと無表情の仮面をかぶっていた少女の、おそらくそれは
 動揺の現れだったのだろう。しかし、少女はすぐさまそれを消し去って聞き返した。

 「誰を?」

 「八尺瓊‥‥八神 庵だってさ」

 美女は豊満な胸の前で腕を組み、赤い唇を歪めて冷ややかに笑った。

 「ジイサマたちの中には、
  八神がこの機に合わせて何かしでかすんじゃないかと警戒してるのもいる。
  わたしはそんなことないだろうって思ってるんだけど、まあ、
  八神をメンバーに加えるってのは、
  ついでにわたしたちに監視させる意味もあるんじゃない、多分?」

 「彼が素直にいうことを聞いてくれるとは思えないけど」

 「もちろんそうだろうさ。‥‥ただ、もう八咫も何か感づいて動き始めてる。
  ってことは、おいおい草薙も動くだろう。
  八神は草薙 京をビョーキじゃないのってくらいに敵視してるから、
  放っておいても勝手に乱入してくれるさ。
  どっちみちわたしだって、マトモにやるつもりはないからね」

 「‥‥‥‥」

 美女の言葉をじっと聞いていた少女は、黒髪を揺らして立ち上がった。

 「いつ行く?」

 「あんたさえよければわたしは今すぐだって構わないよ。
  ウワサの八神 庵、どんな男か興味あるし」

 「‥‥すぐに行きましょ」

 口調は相変わらず物静かだったが、しかし、そう呟いた少女の瞳には、
 それを見たものをたじろがせずにはおかない強い意志の輝きがあった。
 その日の最終電車が入ってきた時、いささか奇妙なふたり組の姿は、
 薄寒いホームからはすでに消え去っていた。



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