KOF’XI 餓狼チームストーリー



 「キムのダンナ、ばんざーい!」
 「健闘を祈ってるでヤンス〜!」

 チャンとチョイの空々しい、いや嘘くさい、もとい懸命なエールを受けながら
 キムとテリーは空港のロビーで人を待っている。
 この異例の取り合わせが決まるまでには、もちろん紆余曲折があった。
 度重なるアンディとのすれ違いに業を煮やした舞が
 「そうよ二人で参加『しなければ』いいのよ」と、強引にKOF期間中にバカンスを
 決め込むと、ムエタイのタイトルマッチとバッティングしてしまったジョー・東も不参加。
 去年チームを組んだグリフォンマスクは既に別のチームでエントリーを
 済ませていたとあって、一時期テリーは途方に暮れていたものである。
 そこにノコノコと現れたのが、ネギを背負ったカモならぬダックであった。
 「ヘイ、テリー? ずいぶん感じが変わったなア」
 派手な服装にサングラス、髪型はモヒカン、独特のステップとハイ・トーン。
 サウスタウンのちょっとした名物男、ダック・キングとの再会に、
 テリーは闇夜に光明を見出した気分だった。しかも、
 「KOF? OKOK、ちょうど退屈してたところだぜェ♪」
 と、その場で二つ返事で引き受けてくれたとなると、
 ダックの濃い顔が神々しくさえ見えてくるから不思議である。
 「で、あと一人はどうするんだテリー。KOFは三人で一チームだろ?」
 「ああ、それにはアテがあったんだが……」

 テリーはキム率いる韓国チームから、ひとり分けてもらうつもりだったという。
 確かに去年の大会では、ジョン・フーンの参加によってチョイ・ボンゲが不参加となって
 いたから、今年もと考えるのは自然の流れである。ただ、今年はそのジョンが
 参加しないため、韓国チームは3人で定員ピッタリとなってしまうのだ。

 「チッチッ、テリー、じゃあキムを誘えば万事解決じゃないのか?」
 「そりゃあキムが参加してくれれば心強いが、それは無理だろう」
 「なんで」
 「チャンとチョイがあぶれちまう。あいつらだってKOFを目標に鍛えてきたんだ。
  俺たちが割り込んだら気の毒じゃないか」

 ダックは大げさに首を振った。やれやれ、仕方ないなこの男は……といった表情である。
 「あのなテリー、よーく考えてみろよ」
 「? あ、ああ」
 「あのキムの弟子二人は、自分から進んでKOFに参加してるのか?」
 「……」
 「な?」





 「テリーのダンナ、ダックのダンナ、ばんざーい!」
 「優勝を信じてるでヤンスよ〜!」

 この話をもちかけたところ、渋るキムとは対照的に、チャンとチョイはその場で
 踊り出し兼ねない様子でテリーの提案を全面肯定した。もちろん今でも口では、
 「キムのダンナも、たまには俺たちを切り離して、レベルの高い闘いを目指すべきだぜ」
 「アッシたちはこの次のKOFへ向けて長期計画でトレーニングをするでヤンス」
 などと心情を粉飾し、正当化することも忘れていない。3人が飛行機へ乗り込んだ今も、
 ロビーで小旗を振りつつ、3人の門出を祝福して殊勝さをアピールしている。
 どんな小知恵がついたのやら、たとえキムが難癖をつけたくとも、
 穴らしい穴を見つけることはできなかっただろう。

 「今回は教育も更正も抜きか。キム、少し物足りないんじゃないのか?」
 「そんなことはありませんよ、はっはっは……」

 いつもの爽やかな笑顔も、心なしかキレがない。
 このままでは試合でも実力を100%発揮してくれるかどうか……。
 テリーは一計を案じ、キムを肘でつついた。キムを挟んで反対側のシートに
 座っているダックに聞こえないよう、声のトーンを低める。
 「なぁキム。ダックのことだけど、いつまでもあんな格好で将来は大丈夫かな」
 「……」
 「あいつの将来を考えたら、このKOFを機に『更正』してやった方が
  アイツのためかも知れないぜ?」
 「なるほど……。確かにテリーさんのおっしゃるとおりかも知れません」

 いくらか覇気を取り戻したキムは、腕組みをして考え込んだ。
 その反対側の座席に座っていたダックが、キムを肘でつついた。
 「ヘイ、キム。テリーのことなんだが、いつまでも定職に就かずに
  風来坊を続けてちゃダメだよな? 俺はトモダチとして心配してるんだゼ?」
 「……」
 「テリーにまっとうな生活ってものを『教育』できるのは、キム、おまえだけだぜ?」
 「なるほど……。確かにダックさんのおっしゃることにも一理ありますね」

 キムはさらに一層元気を取り戻した。
 組んでいる腕にも力が入る。
 今度のKOFに臨むにあたって新たな目標を得た彼は、それに向かって
 着実に行動を開始するに違いなかった。そんなテリーとキムとダックを乗せて、
 飛行機がサウスタウンの空に舞い上がった。





 「……行っちゃったでヤンスね」
 「だな」
 「あの二人、キムのダンナのことをちっともわかってないでヤンスね」
 「全くだぜ」
 「どんな風に更正され戻ってくるのか、ちょっとだけ楽しみでヤンス」

 「……」
 「……」
 「でも、ほんの少しだけ寂しいでヤンスね……」
 「ああ、ほんの少しだけな」



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