KOF’XI エージェントチームストーリー



 サウスタウンの某所のバー。
 時計が6時2分を示したと同時に、背後のドアが開いた。
 開店したばかりの店内には、ライムやジンの爽やかな香りが漂っている。

 「……2分遅刻、ね」

 カウンターに肘をついて時計を眺めていた妙齢の美女が、背後でドアの開いた音を確認して
 そう呟いた。

 三名のエージェントにKOFへの参加並びに調査が依頼されたのは、この前日のことであった。
 大元の依頼者は明らかにされなかったが、その窓口となったセスを通じ、今回の調査に
 ふさわしい実力者が選択された。ヴァネッサとラモンは数分前からカウンターに腰をおろし、
 最後のひとりブルー・マリーことマリー・ライアンが到着した。

 「おいおい頼むぜ。この2分が致命傷になる場合だってある」
 「マジメすぎるのは好きじゃないけど、締めるところは締めないとね。わかってる?」

 小言を聞かせるタイプではない二人からステレオで窘められながら、マリーはジャケットを
 脱ぐと、ラモンの隣のストゥールに腰をおろした。

 「ごめんなさい。同じミスは二度しないわ」

 それを聞いて一応二人は納得したようだ。
 フリーの立場上、他人にあれこれと干渉することはないが、その分、各自に課せられる責任は
 きっちりと果たしてもらわねばならない。困難な依頼に命がけで臨むのだ。

 とはいうものの、軽く乾杯して2〜3の事柄を確認し合った後は、すぐに雑談になった。

 調査の内容や方向性は、前もってセスから各自に伝えられている。
 それぞれのファイトスタイルも理解し合っている。
 大会に備えて合宿するといったメンバーでもなし、やることをやればあとはご自由に、
 といった暗黙の了解がある。つまりは皆、大人なのだ。

 早々にビールを飲み干したヴァネッサが、バーテンダーを呼んでカクテルのレシピを
 説明していた。どういう風に興が乗ったのだろう。
 ビール党の彼女にしてみれば珍しい行為である。
 「ジンを3オンス、レモンジュースが1オンス。砂糖とブルーキュラソーがスプーンに2杯。
  それにスパークリングワインを……」

 「それって……『ブルー・マリー』?」

 聞くこともなく聞いていたマリーは、そのレシピに記憶があった。
 いや、覚えていたなどというものではない、このカクテルは……。

 「あら、知ってるの?」

 ヴァネッサが楽しげに反応した。
 カウンターの内側では、既にシェーカーが涼しげな音を立てている。

 「昔、国の研修機関に入ってた頃に教わったの。名前は」
 「……ブッチ」
 「そうそう、ブッチね。びっくりしたわ、あなた知り合い?」

 氷を入れたワイングラスにシェーカーの中身が注がれ、スパークリングワインがその上から
 満たされた。

 「若かったけど、なかなか優秀な教官だったわよ、確かスペシャルサービスに配属希望
  だって言ってたけど、彼、今はどうしているのかしら?」

 「……死んだわ」

 周囲が沈黙に包まれる。スパークリングワインの泡が弾ける音だけが、小さく頼りなく薄暗い
 空気の中に消えていった。

 「私のパパとブッチは、職場の同僚だったの。
  スペシャルサービスで大統領の警護を担当していたわ」

 マリーは抑場のない声で、古い新聞記事を読むように語った。
 数年前の大統領暗殺未遂事件。パレードの最中、大統領を襲った凶弾。
 それを防いだ 二人のスペシャルサービスが命を落とした。
 そして、そのどちらもがマリーの身内だった……。

 「そうだ、思い出したぜ。あの事件はメキシコでも大ニュースになったからな」
 ラモンが手にしたグラスは、じっとりと汗をかいてコースターを濡らしている。

 「このレザージャケットはブッチが私にくれた物だった。コマンドサンボも彼が教えてくれた。
  立ち直るのに、結構時間がかかっちゃったわ」

 マリーは微笑んで茶化したが、無理に作った笑顔だということは誰の目にも明らかである。
 カウンターの内側にいるバーテンダーだけが黙々とグラスを磨いていたが、その耳も
 この会話に向けられていた。

 「……最近、私、ちょっとだけ油断してたわね」

 随分時間が経過してから、マリーがぽつりと呟いた。

 「おいおい、さっきの遅刻か? 日本人じゃあるまいし、2分くらいどうってことないぜ」
 「そうよ。さっきのは初顔合わせの空気を和ませる軽いジャブの応酬ってやつね」

 マリーは静かに首を振った。
 昔の私のように、笑顔を忘れるようなことはしない。でも…、
 「でも、もう少しだけクールさを取り戻すべきだったんだわ」

 店の扉が勢いよく開いて、数名の客がどやどやと入ってきた。
 そろそろ店も賑わう時間だ。エージェントたちが昔話を語るには、少々空気が重すぎる。
 3人は、誰から言うともなく席を立った。

 店の外に出ると、街はすっかり夜の顔になっていた。
 そこかしこにビルが壁のようにそびえ、その壁のそれぞれに居心地のよさそうな明かりが
 灯っている。

 「クールさを取り戻すのは、明日の朝からだろ?」
 ラモンが言った。
 「この近くに、本格的なテキーラを飲ませる店があるんだけどな」



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