KOF’XI アンチ極限流チームストーリー



 打倒、極限流。

 その目標に向け、如月影二は己に厳しい修行を課していた。
 人里を離れ、野を駆け山を走り、己の肉体を痛めつけた。

 どのくらいの月日が経過しただろう。
 確かな手応えを感じた影二は、ついに山を降りた。
 雪辱を晴らす舞台はKOF以外にはない。
 そのKOFに出場するためには、あと2名の同志が必要であった。

 (そう、同志でなくてはならぬ)

 己の力に自信を持っている影二ではあったが、KOFが団体戦である以上、
 ただ腕が立つだけではなく、極限流を共通の敵とする……。
 つまり、目的が一致する味方を得なければならない。
 (でなければいつぞやのように、思わぬ不覚を取るかもしれぬ)

 同志のひとりは、すぐに思い浮かんだ。藤堂流の使い手で藤堂竜白の娘、香澄。
 影二はさっそく香澄を探し出し、己の目的を説明してかき口説いた。

 「KOFで優勝……。いや、KOFで極限流を打倒すれば、その盛名は必ずや竜白殿の
  お耳にも達するはず」
 「確かにそのとおりです! わかりました、私でよろしければ!」

 元々の目的が目的だっただけに、香澄は簡単にKOFへの参加を引き受けた。

 「そうと決まれば、ひとつ確認しなければなりません」
 「香澄殿、何を?」
 「タクマ・サカザキが謎の暴漢に倒されたとの噂、真実かどうか確かめねば」
 「フン、バカな……」

 影二は「あのタクマ・サカザキが」と、頭から信じようとしなかったが、
 ずっと山に籠もっていた影二と異なり、曲がりなりにも街住まいをしていた香澄の
 耳には、再三にわたってこの「噂」が聞こえてきている。
 香澄は極限流道場の近所で聞き込みしてみた。

 「ああ、タクマさんなら暴漢に襲われて入院してるよ」

 真実はあっさりと明らかになってしまった。
 道場の隣の主婦からそう聞いた香澄は、その足で病院へと急いだ。



 「すまないなユリ。わしがこんな体じゃなかったら」
 「お父さん、それは言わない約束でしょう」
 「心残りはただひとつ。極限流三代目の顔を見ずに……。うっ、ゴホゴホ」
 「師匠、無理したらアカンやないですか」

 (な、なんということだ!!)

 ナースセンターの影に隠れるようにして様子を伺っていた香澄は、驚愕の事実に
 ショックを受けていた。タクマ・サカザキは明日をも知れぬ命であったのだ。

 「どうしよう、どうすればいい……。お父様もこれを聞けばさぞや落胆されて」
 「あれ仮病だよ」
 「そう、仮病で重体……。え、仮病?」
 「しーっ!! 声が大きいよ!」

 不格好に柱の影に身を隠したつもりになっている香澄と異なり、その小柄な少女は
 しなやかな猫を思わせる体つきで、あくまで自然に体を壁に寄せて目立たなくさせていた。
 香澄の様子を見て患者や看護師は不審の目を向けるが、少女を気にとめる者は誰もいない。
 といっても、その差は肝心の香澄はさっぱり理解していなかったが。

 「あなた確か、去年アテナさんや雛子ちゃんと一緒にKOFに出場してた」
 「そ、まりんだよ。ヨロシクね、香澄さん♪」



 「では、まりん殿! 我らに力添えしていただけると?」
 「うん。アタシも極限流と闘ってくれそうな人を捜してたんだ。ちょうどよかったよ」

 病院の近くにある喫茶店に場所を移した香澄とまりんは影二を呼び出し、事と次第を説明した。
 その上でまりんの方からチーム結成を持ちかけられ、今まさにめでたく『アンチ極限流』
 チームが誕生したわけである。

 「それはいいとして、先ほどの仮病の件は確かなのですか?」
 「え? 確かも何も」

 あんな三文芝居に騙される人がいるのか。本当に大丈夫なのかこの娘は。
 まりんは正直そう思って口にも出したが、さすがに口ごもって声になるようなならない
 ような歯切れの悪いものであった。

 「アタシが調べたんだもん。間違いないよ」

 まりんは喫茶店のマガジン・ラックから週刊誌を取り出して、眉間に皺を寄せた。
 巻頭に次回のKOF特集が組まれていて、今年も出場が予想されるいくつかのチームが、
 顔写真入りで掲載されている。

 「ふうむ、ではなぜタクマ・サカザキは、そのような事を……」
 「そこまではわかんないよ」

 まりんはボールペンを取り出すと、雑誌に何やらあれこれと書き込みはじめた。

 「そうだ、どうしてまりんちゃんは極限流を?」
 「アタシのスタイルに いちゃもん つけられたんだ。
  ほら、アタシって暗器とか使うから」
 「フッ、笑止」

 影二が顔半分を覆う覆面の下で、薄く笑った。

 「重火器でも使うならいざ知らず、闘いとは本来武器も含めての勝負のはず。
  暗器ごときでリョウ・サカザキも器の小さい」
 「あ、兄貴の方じゃなくてね、妹の方だから」

 会話しつつ、まりんは忙しく落書きを続けている。
 雑誌に掲載されていたユリの写真は、頬に十字傷を入れられたり、鼻毛が豪快に
 描き加えられたりして、なんだか大変な絵柄になっていた。

 「ま、まぁ闘う理由はそれぞれあるだろう。
  いずれにしても、この大会が終わるまでは一致団結。よろしいな」
 「わかりました。 藤堂流の名誉にかけて!」
 「オッケー。そのへんぜーんぶまとめて、まりんにおまかせっ♪」

 案外あっさりと集まったアンチ極限流三人組。
 前回参加した時とは、チームの趣が随分異なるのが気にならないこともないが、
 ひとまず如月影二は満足していた。
 他の二人など、所詮は数合わせ。
 いざとなれば全ての敵を己のみで倒す心構えはできている。

 「フッフッフ、極限流め……今度という今度は、一泡吹かせてくれる!」



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