KOF’XI 龍虎チームストーリー



 「すまないユリ、わしがこんな体じゃなかったら」
 「お父さん、それは言わない約束でしょう」
 「心残りはただひとつ。極限流三代目の顔を見ずに……。 うっゴホゴホ」
 「師匠、無理したらアカンやないですか」

 前回のKOF開催中にタクマ・サカザキが襲われてからしばらくたった。
 悪いことは重なるもので、今回の開催時期にガルシア財団の重要なプロジェクトが
 進行することとなり、ロバート・ガルシアのKOF参加までが不可能となった。
 このままではリョウとユリの参加も、事実上不可能である。

 「というわけだ、手を貸してくれないかキング…… ごほごほっ」

 電話越しに聞こえてくるタクマの声音が常になく弱々しかったため、
 万が一のことまで考えながら花束を抱えて病院に駆けつけたキングであった。
 が、いざ見舞ってみるとどうも様子がおかしい。
 一年近く入院しているはずのタクマの血色は妙に良かったし、筋肉も全く衰えて
 ないように見える。看病疲れでやつれたと語っていたはずのユリとて同様だ。

 「と、とにかくこれ。見舞いの花だよ。飾ってくれ」
 「気を遣わせて悪いなキング…… しかしその花が全て散った時、このわしの命も」
 「お父さん、そんな気弱なことじゃダメ!」
 「ああ、ついにこのわしも極限流三代目の顔を見ることもなく」

 その時、通りがかった女性の看護師が、病室をひょいとのぞいて言った。
 「あらサカザキさん、今日はどうしたんですか?」
 「え? いやなに、何でも……」
 「あらあら、いつも元気なサカザキさんが、おかしいわねえ」
 「そそ、そんなことはないっ!」
 「そうですよ、これはその…… そう!ローソクの燃え尽きる前の最後の輝きだッチ!」
 「せや! 師匠は余命幾ばくもあらへんのやで!」

 まだ何か言いたそうな看護師を、ユリとロバートが病室から押し出した。

 「あんたらね……」
 キングは目頭を押さえて頭を振った。

 「サカザキさ〜ん、検診の時間です」
 先ほどとは別の看護師がやってきた。
 (くそ、なんでこんな看護師ばっかり次から次へとやってくるんや!)
 (たぶんここが病院だからでしょ)
 看護師はロバートの心情などどこ吹く風で、タクマの口に事務的に体温計をくわえさせた。
 「そういえばサカザキさん」
 「な、なんですかな。ごほごほ」
 「最近、病院の食事が足りないのか、夜になって病院を抜け出して、向かいの
  ドラッグストアに通ってる人がいるらしいんですけど、ご存じありませんか?」
 「さっぱり見当もつきませんな。ごほごほ」
 「その人は顔がわからないように、天狗のお面を付けてるそうなんですけど、
  それでも本当に知らないんですね?」
 「し、知りませんな」
 看護師曰く、天狗のお面をつけた入院患者は抜群の運動能力を有しているらしく、
 2メートルはある病院のゲートを軽々と飛び越え、ドラッグストアでは必ず
 ジャパニーズ・ソバ・ヌードルを購入しているらしい。
 検温の結果は36度5分。平熱中の平熱であった。





 「……と、いう見舞いだったわけさ」
 「すまんキング、本当にすまん! ……あのバカ親父とバカ妹に最強のバカ虎め」
 全ての身内を平等にバカ呼ばわりしつつ、リョウはキングに頭を下げた。
 「もういいよ、それより相変わらず修行の虫かい?」
 「え? ……ああ、まぁな。今、練習生が引き上げたところだ。これからが俺の時間さ」

 喧噪から解き放たれた道場には、ちょっとした神聖な雰囲気があった。
 隅々まで掃き清められた床。神棚には瑞々しい榊。
 折り目まできっちりと揃えられた道着。静まりかえった空間。

 「で、実際に容態はどうなんだい? 入院してる以上、どこか悪いんだろう?」
 「前の大会の後、襲われた傷か? あれはどちらかというと古傷の発生が主で、
  あっという間に完治して退院してるよ。今回のは検査入院だ」
 「検査?」
 「親父もトシだからさ。人間ドックも兼ねて一週間病院に放り込んだ。調べりゃ
  血糖値だの肝機能だの、まぁいろいろとな。おかげで静かな日々を過ごしてるよ」
 「あまりヒマができると、また今回みたいなことを画策するよ」
 「……それもそうか」

 会話が途切れると、静寂が耳に痛い。
 リョウはいつの間にか、会話を探してあちこちに視線を動かしていた。

 「ま、まぁ親父の体調が万全じゃないのは本当だし、ロバートがKOFに専念できそうも
  ないのも嘘じゃないらしい。俺とユリじゃメンツが不足してるし、門下生も
  KOFに連れて行けるやつとなると、正直厳しいよ」
 「じゃあ、どうするんだい?」
 「今年は諦めるさ、いい機会だ。
  そろそろ俺も道場経営に本腰を入れてみてもいいかなって考える時もあるしな」
 「……ふーん」

 全ての窓が解き放たれた道場に、風が吹き抜けた。

 「リョウはさ、『極限』にたどり着いたんだね」
 「え?」
 「ここは極限流の道場だろ? もう極限の強さを身につけたんだなあ、ってさ」
 「そんなわけないだろキング」

 リョウは言った。武の道は長いし深い。俺なんかまだまだヒヨッ子だ。
 積まなきゃならない修行と実戦は山ほどあるんだ……。」

 「じゃあ戦いなよ。アンタらしくないだろ。
  KOFくらいレベルの高い格闘大会は、そうそう開かれるもんじゃないんだ」
 「しかしメンバーが」
 「リョウ、ここは素直に『手を貸してくれ』って言えばいいんだよ」
 「……そうだな。すまんキング。今回も頼む」





 「さすがはキングさん。ユリの巧みな演技も通用しなかったッチ」
 「わしもこのままでは、本当に三代目の顔を見ることなく……」
 「せやから師匠! 極限流の三代目はワイとユリちゃんでぶげぁっ!」
 「サカザキさん、病室で正拳突きはやめてください!」
 「とにかく次の策だ。二人とも、耳を貸せ」

 「……」



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