KOF’XI 餓狼MOWチームストーリー
義賊集団『リーリンナイツ』を率いるB.ジェニーは、巨額の優勝賞金と、
毎回必ずミステリアスな展開を見せるKOFへ参戦を決めた。世界有数の財閥、バーン家。そしてその一人娘がジェニーである。
だが、深窓の令嬢という形容詞がこれほど当てはまらない富豪の娘もいないだろう。
育ちが言い割に、その行動は即断即決。すでに二人のメンバーには当たりをつけていた。
放浪の中国拳法家と、プロレスラーである。
※ 「もしもーし。あなた、牙刀さんですよね?」
「……だったら何だ」
向かい来る通行人がことごとく避けて通る強面の中国人風の男。
牙刀の険しい瞳に見据えられると、抜き身の刀を鼻先に突きつけられたような感覚を
覚え口数はずいぶんと減ることになる。……普通の感覚の人間ならば。「私と一緒にKOFに参加して欲しいのねーん♪」
臆する気配もなく、ジェニーは交渉した。
「賞金は3人で6:2:2の比率で分配する。必要経費は各自負担。
会場への移動には、リーリンナイツの潜水艦を使わせてあげてもいいわよん♪」
「……」
「あらあら〜。じゃ、賞金は均等に山分け。これで万事オッケー!」
「どけ、小娘」もはや通りすがりの人々の方が、この険悪な空気を読めないジェニーを心配していた。
どう考えてもこれから先、平和的な方向に会話が進むとは思えない。
「あーん、これでもダメ? じゃあ……」
牙刀がジェニーを強引に押しのけ歩み去る。それでもジェニーのペースは変わらない。
「あなたのパパの情報、なんていかが?」
牙刀が歩みを止めた。
「……貴様、何が言いたい。どこまで俺のことを知っている」
「リーリンナイツの情報網を甘くみちゃダメダメ!」
とは言ったものの、半ば以上は虚勢であった。牙刀が仇でもある
実の父を捜して旅している以上、彼自身がそこら中で聞き込みを行っている。
誰でも少し調べれば彼の目的まではわかるのだ。
問題はそこから先である。ここがハッタリの効かせどころだ。「極限流って知ってる?」
格闘技に関心のある者で、この名を知らぬ者は稀だろう。
毎年開催されるKOFでも常に優勝候補に挙げられる正統派空手。
特に五十歳を超えてなお衰えを知らないタクマ・サカザキはちょっとした名物男であった。
そしてそのタクマが謎の暴漢に襲われ、いまだ生死の境をさまよっていることも、
サウスタウンで腕に覚えのある者たちの間では知らぬ者とてない噂である。
「名前だけはな……まさか!」
「真相はわかんないけど、あなたが手を貸してくれるなら、
本気でこのことを調査してあげてもいいんだけどな〜?」
「……」
「悪い話じゃないわよね? パパの情報+賞金は4:3:3。ね?」
※ 「……というわけで事情は話せないけど、そんな暴力的で怖い男と
KOFに参加しなくちゃならなくなったの。しくしく」
「ふむ、それは大変だな。で、このグリフォンマスクに何の頼みなのだ?」
試合を終えたばかりのプロレスラーの控え室。
充分に広いスペースを確保しているはずのこの場所も、身長215センチの
グリフォンマスクの巨体が存在すると、何やら狭苦しく感じられてしまう。
もちろん部外者は入室禁止だが、ジェニーが花束を抱えて熱心なファンを装うと、
案外簡単にここまで通してくれた。
ジェニーは目に涙を浮かべて訴えている。「私も格闘技にいささか覚えはあるの。でも……」
根が気弱で繊細な自分には、KOFで勝ち進むどころか、牙刀と同じチームで
闘うことだって難しい。このことを思い悩んで、ここ数日は食事も喉を通らず、
夜も満足に眠れない。
「そんなとき、反則技にも屈せず、子供たちのために闘うトリ……
じゃなくてグリフォンマスクの勇姿を見て感動したってわけ。
この人なら私に力を貸してくれるって」
丸太のように太い腕を組んで聞き入っていたグリフォンマスクは、大きくうなづいた。
「事情は分かった。力を貸そう」
「へ? そんなあっさり?」
「何か言ったか?」
「な、何でもないの」
「KOFといえば多額の賞金が出ることで知られている。かねてから子供たちが
無料で私の試合を観戦できるよう、グリフォンシートを作りたかったのだ」
「そ、そうなの? じゃあ賞金は6:2:2で」グリフォンマスクはまたしても大きくうなづいた。
「金額が問題ではない。心だ」
ジェニーが我が意を得て大きくうなづいた。うんうん。
「だが、もし、もう少しだけ取り分を増やしてくれるなら、
経営難に苦しむ孤児院にそれなりの支援を…」
「……」
「いや、無理にとはいわん。そちらにもいろいろと経費がかかっているのだろうからな」
「……わかった、わかったわよ。取り分は4:3:3。これ以上は無理だからね」
※ 「あ、艦長、おかえりなさーい!」
「どうでした艦長、牙刀とグリフォンマスクは仲間になってくれました?」
「……」
「どうしたんです? 断られたんですか?」
「それは大丈夫。ただね……」
「ただ?」
ジェニーは悠然として答えた。
「世の中って案外せちがらいの。とほほ〜」