KOF’XI サイコソルジャーチームストーリー
「久しぶりやなぁ……。アテナ、元気にしとるかいな」鎮元斎の元で1年にわたる修行を積み、椎拳崇が帰ってきた。
精錬に引き締まった顔つき。鍛え上げられた肉体。一回り大きくなった人物の器。
磨かれたサイコパワー。戦士として成長した彼の姿に、道行く人も思わず振り返る……。と、思っているのは本人のみで、外見上大して変化があるわけではない。
それでも内面をいささか鍛えた自負も事実もあるから、心もち態度が堂々としている
ように見えなくもない。アテナが次のKOFに向けて修行している某ペンションまであと少し。
ケンスウは、バッグに無理矢理詰め込んだ大荷物と、小さな紙箱に詰められた差し入れの
肉まんを手に取って、先を急ごうとした。「にくまん……」
地面にちょこんと膝をかかえて座っている女の子がいた。
ケンスウが肉まんの紙箱を持ち上げると、女の子の視線もそのままスライドした。
ためしに箱を右に動かすと視線も右に。左に動かせば左に。
ゆったりとした服装にふわふわの髪と桃色のリボン。大きな目に幼い顔立ち。
近所の小学六年生といったところか。「じ〜〜」
という視線が発する音でも聞こえてきそうな雰囲気である。
ケンスウは女の子と肉まんの箱を数度見比べ、心の底から残念そうに、ため息をついた。
※ 「オレ、椎拳崇。ケンスウでいいで」
「わたし桃子!」
大振りの肉まんを両手で持ち、はむはむとほおばりながら桃子は元気に紹介した。
……小学四年生くらいかもしれない。「ふーん、ももちゃんか。ももちゃんは迷子なん?」
「迷子じゃないもん!」桃子は力強く否定した。ただ、家の場所がわからなくなっただけだもん、と。
(それを迷子っちゅうんや)
突っ込みを心の中だけでとどめておくあたり、ある意味僅かに成長したといえるかもしれない。「な、家はどのへんにあるんや? なんか目印になるもんとか近くにあるやろ」
「んーとね。近くの公園に、おっきな桜の木が3本あったよ」
「なんや、俺が行くところの近くやん。じゃ、そこまで連れてったるわ」
「うん!」郊外の空気は澄んで、日和も良い。
散歩がてら道を行くのも悪くなかった。会話もはずむ。「……ほんでな、その子アイドルやってんねんけど、ホンマはわいにベタ惚れやねん」
「ふーん」なだらかな坂をのぼりきると、芝生のきれいな小さな公園が見えてきた。
桜の老木が三本生えていて、春になればかなりの見物になるだろう。「アイドルやってる手前、口には出せへんけど、俺にはよーくわかってるんや」
「へー」
「その子、俺ほどやないけど、格闘技もごっつ強いんやで」
「知ってるよ、KOFに出てるんだよね」
「お、ももちゃん良く知ってるやん」気分の良くなったケンスウの舌は滑らかだった。
「いつも優勝候補筆頭やねんけど、アル中のもうろく爺さんがどうしても一緒に出場する
言うて聞かんさかい。毎年足引っ張られていいところで負けてまうことも多いねん。
ま、俺がその分カバーすればいいんやけど、天才サイコソルジャーと言われた俺でも
フォローするんに限界はあるわな。他にもガキはいるわパンダはいるわで大変なんやから
全くもう。ももちゃんは連中のことを知らんからええけど、手がかかる言うたらないわホンマ。」「あ!アテナちゃんだ!」
「……へ?」「ももちゃん!? もう!どこに行ってたの?」
公園にいた麻宮アテナが、こちらに向かって駆け出して来た。
横にいた桃子も駆け寄って、勢い良くアテナに体ごとしがみつく。「心配したんだから……。あら、ケンスウじゃない。どうしたの?」
「……一年ぶりやのに、そりゃないでアテナ」離れた土地で一日千秋の思いで修行してきたケンスウは、さまざまに期待していた
再会シーンを全て否定されて苦りきっていた。そもそも何なのだこの子供は。「あ、紹介するわね。こんど老師の推薦でいっしょにKOFに出場することになった桃子ちゃん」
「……は?」
「もう仮エントリーも済ませたからね。私とケンスウと桃子ちゃんの、
新生・サイコソルジャー・チームよ!」新生? 新生って何や。去年サイコソルジャーチームが不参加だったのは知ってるけど、
老師でも包でもないってどういうことや。「いや、だから。包の時もやったけど、小学生でしかも女の子やで?
老師もいよいよボケたんやないか?」
「桃子、小学生じゃないもん!」
「ほな中学生かいな? 俺はてっきり……」
「高校生だもん!」
「こ、高校生!?……あ、あかんあかん!どっちにしてもこんな小学生にしか
見えない女の子をKOFみたいな乱暴な大会に」
「また小学生って言った〜!小学生じゃないもん!」と、ここで桃子は抗議をやめ、ちょっぴり高校生っぽい大人の笑みを
ケンスウに向けて浮かべた。「ねぇねぇアテナちゃん」
「なあに?」
「アテナちゃんって、『あいどる』なの?」
「そうね。お仕事でやってるわ。それがどうしたの?」
「じゃぁケンスウ兄ちゃんに『べたぼれ』なんだね」
「ぶぶっ」ケンスウは水も飲んでいないのに思い切りむせた。
このあどけない少女が何をしゃべるつもりなのか、わかったのだ。「ケンスウ兄ちゃんは『てんさいさいこそるじゃー』なんだよね」
「……そ、そうかもね」
「おじいちゃんは『あるちゅう』で、『あしでまとい』ってほんと?」
「ど、どうかしら」
「薫おねえちゃんは『いがいとしょうわるおんな』で『おじゃまむし』なの?」
「……ケンスウ、ちょっと話があるんだけど」
「ま、待った。ちょっと待ったやアテナ。違うんやこれは……」
※ この次の週、アテナはKOFに正式にエントリーを申し込んだ。
記載されてあったメンバー名は、麻宮アテナ、桃子、天才サイコソルジャー椎拳崇。
で、あった。