KOF'XV ヒーローチーム ストーリー




 - ヒーローチーム プロローグ -

タン・フー・ルーの元へKOFの招待状が送付された翌日。
「此度の大会にワシは参加せんつもりでの」
 開口一番に放たれた師匠の言葉に、シュンエイと明天君は目を丸くした。
 「なっ...!? 何でだよ、じいさん!」
 「えぇ〜っ、じゃあ今回は僕達、不参加ってこと?」
 眦を上げて憤るシュンエイ、そしてその隣で悲しそうに眉を下げた明天君に対し、タンは首を横に振る。
 「いいや...今回は草薙京と組んで出場してみなさい」
 「草薙京と?」
 「そうじゃ。シュンエイ、明天君...おぬしらは前回の大会を経て精神的にも成長を遂げておる。今のおぬしらであれば、ワシ以外の格闘家とチームを組むこともできると思うてな。なに、これも修行の一環じゃ」
 タンは航空券を二人へと差し出した。シュンエイと明天君は一枚ずつそれを受け取り、紙面に印刷された文字へと視線を注ぐ。そんな弟子二人の姿を見つめ、タンは目元をわずかに緩めたのであった。
 「柴舟殿に話はつけておる。日本への旅路、気を付けて行くのじゃぞ」


 「で、草薙京の代わりに何であんたが? 二階堂紅丸」
 中国から日本に到着した直後、空港の入り口でシュンエイと明天君を出迎えたのは草薙京ではなく、彼とよくチームを組んでいる男ー二階堂紅丸であった。怪訝な表情をして立ち尽くすシュンエイ、その隣でうつらうつらと頭を揺らす明天君を見るや否や、紅丸は苦笑しながら肩を竦める。
 「その草薙京は“別の用事”で手一杯らしくてな。代理を頼まれたんだよ」
 「全ッ然、話ついてねぇじゃん...」
 呆れ返るシュンエイに対し、紅丸は「同感だよ」と額を押さえた。
 紅丸が京から代理の話を受け取ったのはつい昨日のこと。大門は柔道連盟での仕事が入り、京も“野暮用”とやらでどこかへ出かけており、今回のKOFは参加見送りかと考えていた矢先の突然の連絡だったらしい。
 二人にそう説明した後、紅丸は改めてシュンエイと明天君へと向き直った。
 「俺がチームメイトでも構わないだろ? お前らは他にアテなさそうだし」
 「そうなんだけどさ。一度戦ったことがあるとはいえ...俺達はあんたのことはよく知らないし、それはそっちも同じだろ? もし……」
 ――もし、俺の力が制御できなくなって、暴走でも始めたら...
 シュンエイはそう言いかけてから口を噤んだ。表情を曇らせながら俯くその姿に紅丸は眉を顰めたが、彼が何かを言う前に「ふわぁ」と大きなあくびが上がる。
 「シュンちゃん、大丈夫だよ〜」
 枕を小脇に抱え直しながら、明天君は空いた手でシュンエイの服の裾を引いた。とろんと眠そうな目でシュンエイと紅丸を順番に見回した後、明天君は無邪気な笑みを浮かべてみせた。
 「それにね、先生は修行のイッカンだって言ってたし〜...僕ら、これから仲良くなればいいんじゃないかな? だからよろしくね、紅丸さん」  ニコニコと笑いながら手を差し出した明天君の姿を見つめ、シュンエイもまた肩の力を抜きながらぎこちなく笑った。
「...それもそうだな。よろしく、二階堂紅丸」
 「ああ、よろしくな。シュンエイ、明天君」
 三人で握手を交わす。その時、上空を飛行機が飛び立っていく音が響いた。シュンエイと明天君がふと視線を上げれば晴れやかな夕暮れの空と、飛んでいく機体の後ろに連なる飛行機雲が目に映った。
 「じいさんに優勝の知らせを持って帰ってやろうぜ」
 「えへへ、そうだね」
 顔を見合わせて笑い合うシュンエイと明天君の肩をトンと叩き、紅丸は二人へと笑いかけた。
 「さてと、チーム結成祝いも兼ねて何か食いに行こうか。俺の奢りだから、好きなの選びな」
 「ほんとに!? ありがとう紅丸さん! じゃあね、僕、ワギューの焼肉食べてみたい!」
 「おい明天、少しは遠慮しろって...」
 「和牛、焼肉ねぇ。オーケイ、ちょっと待ってな」
 シュンエイは眉を顰め、今にも飛び跳ねんばかりの表情で挙手をした明天君を肘で小突く。対して紅丸は二人の様子を気にする素振りもなく、慣れた手つきで店を検索している。しばらくして、彼はスマートフォンを二人の前に差し出した。
 「この店とかどう? この前ダチと行ったけど味は悪くなかったぜ」
 差し出された画面をスワイプしていけば、黒毛和牛と思しき艶やかな肉の盛り合わせや豊富なサイドメニューの写真が次々と現れる。シュンエイと明天君は思わず感嘆の声を上げてその写真を眺めた。
 「す、すごいな。本当にいいのか?」
 「気にすんなって。お祝いだって言ってるだろ?」
 爽やかにそう言ってのける紅丸の笑顔には、年長者としてシュンエイと明天君にいいところを見せようと見栄を張っているような様子は欠片も無い。シュンエイは紅丸の顔から視線を逸らし、ぽつりと呟いた。
 「意外だな...」
 「ん?」
 「あんた、派手だし軽薄そうに見えっけど。けっこう世話焼きなんだなって」
 「ふふん、こういうギャップを世のレディは好むからね。モテるための秘訣さ」
 その時、明天君が画面をシュンエイへ向けながら、興奮した様子で声を上げた。
 「シュンちゃん見て見て! スイーツもいっぱいあるよ!」
 「マジか! ...うわ、すっげぇうまそう...」

 色とりどりのスイーツの画像に思わずシュンエイの表情が綻ぶ。年相応の無邪気さが垣間見えるその姿を見て紅丸はニヤッと笑い、料理に夢中な様子の二人の肩に腕を回した。  「へえ、甘いもの好きなんだな。今日は好きなだけ食っていいんだぞ、シュンちゃん♪」
 「おい。飯を奢ってくれるのはありがてぇけど...ちょっと馴れ馴れしすぎないか、あんた」
 「シュンちゃん照れてる〜♪」
 「からかうなって! たくっ...」
 空港の入り口から遠ざかっていく三人の背を明るい夕日が照らす。
 しかし、彼らはまだ知らない。この数日後、彼らが一人の少女と出会うことを。そして、それが今大会に忍び寄る災厄の序章であることを...。



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