KOF'XV K'チーム ストーリー




 - K'チーム プロローグ -

――嘘つき! クーラぜったいに許さないんだから! K'もおじさんも、大っ嫌い!
 泣きながら自分の部屋に飛び込んでいったクーラに対し、「明日になれば機嫌も直る」と無責任に言ったのはどちらだっただろうか。何にせよ、K'とマキシマは選択を誤った。NESTSの残党狩りでどれだけ疲弊していようと面倒くさがらず、すぐその場で彼女に謝罪すべきだったのだ。
 しかし、夜が明けた時には遅く、クーラはお気に入りのリュックサックと共に姿を消してしまっていた。

 ひと気のない路地裏の奥、まるで隠れるように佇む建物の一室。各地を転々とするK'達のアジトの一つであるその中に彼らは居る。雑多な機材が積まれたリビングとも言い難いその部屋の中央、ウィップは険しい表情のままテーブルの上に写真を並べる。
 「家出したクーラの足跡が掴めたわ...状況は全く好ましくないけどね」
 ローテーブルを挟んだ向かい、ソファに並んで座っているK'とマキシマは彼女の刺々しい視線に晒されながら、写真に目を落とした。
 そこに写っているのはクーラの腕を掴んでいる青髪の青年と、それを面白がるように笑っている銀髪の女だった。青年の目元はゴーグルに隠されているものの、友好的とは言えない態度でクーラを見下ろしている。
 マキシマは困ったように短い溜息を吐き、K'は苛立たしげに舌打ちをした。
 「NESTSの壊滅以降、目立った動きもなく潜伏していたと思えば...今こうしてアンヘルと組んでクーラを誘拐し、KOFにエントリーしている。残党と繋がっている線は薄いけれど、看過できない事態なのは確かだわ」
 きりりと眉を吊り上げ、ウィップは二人へ言い放つ。
 「今回アナタ達にはこの男ー“クローネン・マクドガル”への接触と捕縛、そしてクーラ奪還の任務についてもらうわ。つまり、私と共にKOFに出場してもらうってことよ」
 「...了解、異論はねぇぜ。今回に関しちゃあな...」
 写真の上に重ねるようにして彼女が置いたのは『THE KING OF FIGHTERS』の招待状だった。ウィップの目にはありありと「断る理由はないはずよね」という意思が見て取れる。そんな彼女に対してマキシマは降参するように肩を下げたが、K'だけは面白くなさそうにそっぽを向いた。
 「あいつが勝手に飛び出したんだろ。何でわざわざ迎えに行ってやらなきゃなんねぇんだ」
 彼の発言にマキシマは苦笑を浮かべ、ウィップは呆れたように溜息を吐く。
 「おいおい相棒、そりゃ流石に通らんぜ。嬢ちゃんが家出しちまったのは俺達の責任なんだからよ」
 「まったく、アナタね...」
 「あの野郎がアイツを攫ったのも、わざわざKOFに出るつもりなのも...全部ただの挑発にしか思えねぇ。下らねぇ喧嘩をわざわざ買ってやる趣味なんてねぇよ」
 そこまで言うとK'は腕組みをし、その口を堅く引き結んだ。ただの苛立ちだけではない、僅かな警戒を含んだ声色にマキシマとウィップも同意するように頷く。
 「確かにその線も捨てきれんだろうし、正直俺としてもお前と同意見だよ。ただ、もし奴らの目的が俺達をおびき出すことだったとして、目当ての人物が最後まで現れなかったら癇癪を起こして大暴れしかねん気がしてな」
 こめかみを指で叩きながら、マキシマは眉を顰めた。彼の言わんとしていることにK'やウィップには心当たりがある。崩壊する建物、空に響く二人分の歓声ー随分と昔の出来事ではあるが、しかし、彼らの中に鮮明に残っている記憶のひと欠片が思い起こされた。
 ウィップは苦々しげに眉間を指で押さえ、唸るように言った。
 「そうね。それに、今回は前の時とワケが違う。一般の観客や傍にいるクーラにも危険が及ぶ可能性がある以上、彼らの機嫌を損ねるわけにはいかないわ」
 「...」
 クーラの名前を聞き、僅かにK'の頬が強張ったのを目聡くも二人は見逃さなかった。無言のまま腕組みをする彼の肩をマキシマは軽く叩き、ウィップは諭すように声を掛ける。
 「分かってるんだろ、相棒?」
 「罠だと分かっていても行くしかないのよ」
 「チッ...」
 その舌打ちが諦めの意だということは、二人には容易に伝わった。
 ウィップは肩の力を抜き、満足そうに机の上の招待状を拾い上げる。
 「手続きは私の方で済ませておくわ。クーラの足跡について、また何かあれば連絡するから」
 彼女はソファから立ち上がり、ぐるりと部屋を見渡してから二人へ言った。
 「それと...この部屋、もう少し荷物を整理した方がいいわね。クーラが怪我したら大変だわ。それじゃあ」
 玄関へと歩いていく彼女の背を見送るマキシマの隣で、K'は小さな悪態をつく。そんな相棒を横目で見た後、マキシマはゆっくりと立ち上がった。
 「さてと、お姫様を迎えに行く前にたんまりとアイスを用意しなきゃな」
 「...自分が食いてえだけじゃねぇのかよ」
 キッチンに入って冷凍庫の中身を確認するマキシマへ呆れた視線を寄越しつつ、K'もまたソファから立ち上がる。彼はふと、机に残されたクローネン・マクドガルの写真に気づき、片手で摘まみ上げる。
 「厄介事を持ち込みやがって」
 鋼のグローブを自身のベルトのバックルに打ち付け、指先に灯した炎を写真に押し付ける。最後の一辺が灰になるまで、K'は肉食獣さながらの視線で写真を睨み続けていた。



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