KOF'XV 餓狼チーム ストーリー




 - 餓狼チーム プロローグ -

夕暮れを迎えたサウスタウンの一角、客足が増え始めた頃合いのパオパオカフェに彼らは集合していた。
 陽気なネオンが輝くバーカウンターから少し離れたテーブル席でテリー・ボガードとアンディ・ボガードは思わず連れ合いの男を見つめた。彼らが料理に伸ばしていた手を一瞬止めたのは、友人、ジョー・東がおもむろに提案したからであった。
 今回の『THE KING OF FIGHTERS』に参加するにあたって、優勝の暁に達成したい目標を誓い合おう――彼の提案した内容は要約すればそういった事である。ジョーの性格を考えれば特に珍しい提案ではないものの、突然の申し出にアンディは微かに首を傾げる。
 「誓いを立てるって...別に構わないが、何でまたそんなことを?」
 「普通に参加して普通に優勝するだけじゃつまんねぇだろ? 負けられねぇ理由もできてモチベーションも上がるし、一石二鳥ってなモンよ!」
 ジョーはそう言って不敵に笑った後、唐揚げを頬張る。そんな友人の姿を見、テリーもまた陽気に笑った。
 「ジョーらしいな。いいぜ、乗った!」
 白い歯を見せて笑うテリーと、その隣で同意を示すかのように好意的な笑みを浮かべているアンディを見、ジョーは満足そうに眉を上げる。彼はフォークを置くと、居ずまいを正しながら二人の方へ身を乗り出した。
 「ヘヘッ、お前らなら乗ってくれると思ってたぜ! じゃあまずは俺の誓いだけどよ...」
 「おっと、それ、今言う感じなのか?」
 「あたぼうよ! いいか? 今回優勝したらだな...」
 アンディの言葉に返答した直後、ジョーはしばらくフルフルと拳に力を溜め、気合の入った言葉と共に腰を浮かせながらガッツポーズを取った。
 「俺はリリィにデートを申し込むぜ!」
 かなりの声量で放たれたジョーの声がパオパオカフェの壁に反響する。他の客の視線も気にならないほどの熱量でこちらを見つめる彼の顔つきに、ボガード兄弟は合点がいった。そもそもジョーがこの事を提案した発端はここにあるのだろう。
 「ああ、なるほど...それは気合が入るな」
 「ハハハ。ジョーの恋路のためにも負けられないな、俺達も」
 そう言ってアンディとテリーは顔を見合わせ、笑顔を浮かべる。
 再び椅子へ腰を下ろしたジョーはジョッキに手を伸ばし、視線をアンディへと向ける。
 「おっし!じゃあ次はアンディな!」
 「俺!? 目標、目標か...」
 アンディは顎に軽く手を当て、考え込んだ様子で口を開いた。
 「不知火流の道場で日夜鍛錬を重ねているが、少し道場に籠り気味かもしれないな。さすがに長期間留守にするわけにはいかないけど、初心に立ち返って武者修行に出るのも悪くないか...?」
 真面目に考え込む彼の向かいでテリーは頷いて見せる。
 「武者修行、いいんじゃないか?」
 「ただ、そうすると誰かさんがお前の名前を呼びながら追いかけてきそうだな〜」
 「ジョーは舞を何だと思って...いや、うん、否定できないかもな...」
 ニヤッと笑ったジョーに対して眉を顰めたものの、その様子を想像でもしたのか、アンディの語気が弱くなっていく。アンディは小さくため息をついてドリンクを飲んだ後、今度はテリーに問いかけた。
 「兄さんはどうする?」
 テリーはほんの少しの間を置き、いつも通りの笑みでさらりと答える。
 「そうだな。俺は世界一周してくるか」
 「それじゃいつもと変わんねぇだろ!」
 「確かに。まあでも、それでこそ兄さんらしいよ」
 口角を上げるテリーに対し、ジョーはケラケラと笑った。そんなジョーの様子につられたのか、アンディもフッと口元を緩める。
 三人ともいつも通りの調子ではあったが、いつも通りであるからこそ互いに安心し、信頼できるのだ。誓いがあろうとなかろうと、彼らの本質はいつまでも変わらず、これから先もずっと続いていくのだろう。
 「そうだ。これは誓いとは別なんだが、大会が終わったらマリーや舞も誘って皆でビーチに行こうぜ」
 「ああ、いいね! 是非とも俺達で優勝して、優勝祝いの休暇にしないとな」
 「そんときゃ俺とリリィの仲も進展してるだろうぜ。ま、いい報告期待しててくれよな!」
 外では日も沈んだのか、来店する客足が増え空いていた席に人影が増えていく。さらに賑わいを増す店の中で、三人の笑い交じりの話し声が溶け込んでいった。



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