KOF'XV オロチチーム ストーリー




 - オロチチーム プロローグ -

悠久とも思える闇の中で彼らが見たのは、突如として現れた“亀裂”だった。
 亀裂はたちまち広がり、中心がミシミシと音を立てて崩れ落ちていく。その隙間から覗くのは無数の光が瞬く世界。そこはまるで銀河のようでありながら、この世の理から外れた異質さを感じる空間だった。
 薄皮一枚を隔てたかのように近く、しかし永遠にたどり着けないと直感するほど遠いその亀裂の向こう側から彼らが何かの気配を感じた次の瞬間、そこから無数の“手”が噴き出た。
 無数の“手”の奔流は闇の中へなだれ込み、そこに揺蕩うばかりだった彼らを飲み込む。何かがひび割れ、崩れる音が響いたと思ったそのときー七枷社、シェルミー、クリスは共に見知った大地の上に倒れていた。

 三人が目覚めてから数日後、彼らはカフェの片隅にて他の客と同じように穏やかな午後を楽しんでいた。
 「やっぱり、僕らにあの光景を見せた張本人がどこかに居るわけだよね」
 クリスはスマートフォンに視線を落としながら、テーブルの上に置かれたジュースへと手を伸ばす。
 「そうね。ただの夢とは思えなかったし」
 「俺達を復活させたい何者かの仕業...って感じじゃ無かったな。少なくともオロチ一族の誰かが起こしたことじゃなさそうだ」
 シェルミーはつい先ほど購入したばかりの雑誌をテーブルの上に広げながら、社はできたてのサンドイッチを頬張りながら返答した。
 クリスはストローから唇を離した後、グラスをコースターの上に置きながらのんびりと言葉を続ける。
 「一瞬だったけど...かなり異質な力だったよね。別の地球意思の仕業って言われても納得しちゃうかも」
 彼の言葉を聞き、社は口に運ぼうとしていたサンドイッチを止める。そして掴んだサンドイッチはそのままに、向かいでぼんやりスマートフォンを弄っているクリスへと目を向けた。クリスは社の視線に気づき、彼の目を見返した。
 「確かにな。けど、そいつが何だって構わねぇだろ? 使えるなら利用してやるだけだ。“招待状”もこうして手に入ったことだし...な」
 片手で豪華な封?が施された一通の手紙をひらひらと振りながら、社は不敵な笑みを浮かべて見せた。彼のその表情にクリスもつられて微笑する。
 「社ったら、相変わらず単純だなぁ...けど、それもそうだね」
 二人がそれぞれサンドイッチとスマートフォンへ視線を戻そうとしたそのとき、傍らで雑誌を読んでいたシェルミーが小さな声を上げた。
 「あら?」
 彼女は広げている雑誌を回して社とクリスの方に向けると、誌面の一部を指差した。
 「社、クリス、これ見てみて。あの“手”、この子のコレに雰囲気が似てると思わない?」
 シェルミーが弾む声色で示したのは、『THE KING OF FIGHTERS特集』と書かれた記事の隅だった。そこには前回のKOFにて撮影されたと思しき写真が掲載されている。被写体となっているのは大きな幻影の手を操る一人の少年だった。
 「シュンエイくんですって。写真は粗いけど、けっこうカワイイ顔してるわね♪」
 うっとりと頬に手を添えるシェルミーに対し、社とクリスは一度顔を見合わせた後で写真に視線を落とした。彼女の言う通り写真は遠くから撮影されているためか少し荒く、社は眉間にしわを寄せる。
 「確かに雰囲気はそれっぽいが、こんな写真じゃなぁ...」
 「大会で直接確かめればいいんじゃない?」
 二人が返答すれば、シェルミーは笑顔を崩すことなく雑誌を再び手元に引き戻した。
 「そうね。うふふ、楽しみが増えちゃった♪」
 社は手に残っていたサンドイッチを口へ放り込み、そのまま目の前のアイスコーヒーへ手を伸ばす。クリスもグラスを手に取るが、氷がカランと乾いた音を立てたことに「あ」と短く呟き、店の中を巡回している店員へと声を掛ける。
 「すみません、オーダーお願いします」
 はーいと声を上げて歩いてくる店員を尻目に、シェルミーは雑誌の記事を熱心に眺め、一ページ、また一ページと捲っていく。
 穏やかな午後の空気と店内に流れる冗長なBGMに大きなあくびを一つ漏らした後、社は身を乗り出して机を軽く叩いた。その物音に隣席の女子高生達も思わず振り返ったが、すぐに彼女らは視線を逸らして自分達の会話へと戻っていく。
 「さてと、そろそろ新曲のこと考えっか」
 彼の言葉にシェルミーが雑誌を閉じ、クリスがスマートフォンを机に置いた。
 「ああ、そうだったね。脱線してごめん」
 「復活ライブ、楽しみね〜。三人でいい曲作りましょ」
 そうして三人は日常へと溶け込んでいく。
 隣の席で雑談に花を咲かせる女子高生も、向かいで新聞を読むサラリーマンも、眠たげに店内を巡回する従業員も、誰一人として彼らの会話の内容に耳をそばだて注目する素振りは無い。
 そう、年の離れたただの友人同士に見えるこの三人が、人類の滅亡を望むオロチ一族であることなど誰が想像できるだろうか。



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